直感漫才
九戸政景
直感漫才
快晴の青空の下、とあるデパートの屋上に作られたステージの前に何人もの買い物客が集まり始めると、ステージ端に置かれたスピーカーからは出囃子が流れ出し、ステージ上に二人の男性が現れた。
「はい、どうも~。『直感』と申します。よろしくお願いします~」
「…………」
「おいおい、どうしたんだよ。お客さんの前なんだから、元気出していこうぜ?」
「……なあ、俺達のコンビ名ってどうして『直感』なんだ?」
「……突然なんだよ? そんなのお前だってわかってるだろ?」
「わかんねぇよ。そんな直感でコンビ決めたような奴らのコンビ名なんて」
「いや、わかってんじゃねぇか!」
ボケ役の男を見ながら発されたツッコミに観客から微かに笑い声が漏れる中、ボケ役の男は手応えを感じた様子で静かに口を開く。
「わかんないのはそこじゃない。そんなコンビ名をつけた意味がわからないんだよ」
「そんなの過去の俺達に言えよ。そもそもお前だって賛成したからこのコンビ名になったんだろ?」
「俺は別に怪盗なんてやってないよ」
「そっちの三世じゃねぇよ!」
「それに別に赤くなってないし……」
「それは酸性だろ! 別にリトマス紙の話はしてないんだよ!」
ボケの連発に対して即座に返されるツッコミに観客からは先程よりは大きな笑い声が上がり、ツッコミ役の男がボケ役の男に目配せをすると、ボケ役の男は小さく頷いてから口を開いた。
「俺はそろそろコンビ名を変えたいんだよ。いつまでも今のコンビ名じゃ嫌なんだよ」
「お前がそう言うなら変えるけど……何か良い案はあるのか?」
「あるけど、つぶとこしのどっちが良い?」
「
「じゃあ、甘酢は?」
「あんかけの話でもないんだよ! 腹でも減ってるのか?」
「減ってるのはギャラの取り分だよ」
「減らしてねぇよ! いつも折半だわ!」
「そうか……もう刷られないのか」
「それは絶版だろ!」
二人の調子が上がっていくにつれて観客から上がる笑い声も大きくなり、その光景に『直感』の二人は楽しそうに笑みを浮かべる。
「良い案が無いなら、コンビ名はそのままにするからな」
「いや、あるよ。だから、それだけ聞いてくれないか?」
「……わかったよ。それで、どんな名前だ?」
「永遠にお前と芸人を続けたいから、その思いをこめた名前なんだけどさ」
「お前……」
「エターナルネバーエンディングリバイバルってどうかな?」
「いや、長ぇよ! 終わりたくなさすぎて永遠とか再生って意味のある言葉ばかりになってるだろ! お前、本当に永遠に俺と芸人をやりたいのか?」
「それは本当。だけど、アイドルや女優と結婚出来たらその限りじゃない」
「薄情すぎるわ! いい加減にしろ」
「「どうも、ありがとうございました~」」
『直感』の二人が揃ってもお辞儀をすると、観客達からは盛大な拍手が送られ、その中で二人はステージの裏まで掃けていくと、未だに鳴り続けている拍手の音を聞きながらハイタッチを交わす。
「お疲れ」
「おう、お疲れさん。いやー、今日は良い感じにウケて助かったな」
「ほんとにな。ネタでも言ったようにお互いに直感で組んだコンビではあるけど、こうした小さな仕事でも貰えるだけありがたいよ」
「違いないな。お前とは本当にずっとこうしてお笑いやりたいから、これからもこういう仕事でも大切にしていきたいな」
「あれ……アイドルや女優と結婚出来たらその限りじゃないって言ってなかったか?」
ツッコミ役の男がクスクスと笑いながら言うと、ボケ役の男は目を閉じながらふぅと息をつく。
「……ネタだとそうでも実際はそのくらいじゃ辞める気は無いって。養成所の中での落ちこぼれ同士だった俺達だけど、直感でこれだと思えた同士でもあるんだから、そう簡単には辞めないよ。
相手を自分の引き立て役みたいに考えたり相手の実力を利用しようとしたりしたわけじゃない。お前ならどこまでも行けると思えたから組んだわけだしな」
「……お前、ネタ以外だと真面目で義に厚いよな。まあ、そんなお前だから俺も安心してお笑いを続けられるわけだし、相方としては大助かりだ。という事で……これからもよろしく頼むぜ、相棒」
「ああ、こちらこそ」
『直感』の二人はお互いの拳を軽くぶつけながら笑い合うと、関係者への挨拶に行くために歩き始めた。
直感漫才 九戸政景 @2012712
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