第17話行動前夜
まさか、彼が。
そう思うも確証はなく。一度袋小路に入った議題は一度置かれることとなり、旅の疲れを癒やすべく各々の部屋へと落ち着く流れとなった。
そして、明け方。
ノア様の関わりがあるのか、無いのか。気になって眠れなかった真珠はある場所へと赴く。
(昨日の今日だもの、もしかすると上手く尻尾が掴めるかもしれないわ)
期待を込めて、真珠が向かった先。それは。
(ごめんね、お邪魔するわ。カイン)
カインが保護され、寝かされた居室だった。
(……眠ってる、わね)
場所を移して、カインの居室。まるで何かを恐れるように縮こまって眠るカインの額に、真珠は手を当てて目を閉じる。
(カイン、あなたの中へ連れてって)
目を閉じて、10秒、……20秒。そして数分が経ち、真珠が諦めかけた頃。
急激な眠気とともに、真珠の意識は深淵へと落ちていった――。
(……ここは)
壊れたカインの、夢の中。
そこで真珠が目にしたのは、「ペルル」が見慣れた王太子の間。つまり。
(カインの部屋だわ。ここ、こんなに暗かったかしら? )
真っ暗な中にランプのみが光り、薄ぼんやりと調度品を照らす空間。それは、中身がペルルの時分に見た王太子の居室とは趣が大きく異なっていた。
そんな違和感を抱きつつも、真珠はその中でカインの姿を探す。すると、程なくして暗闇にほど近い部屋の隅に裸で繋がれた彼に行き当たった。
「ひ、ひどい……」
その有様に、知らず真珠の口から言葉が落ちる。と、次の瞬間。
「ただいま、カイン」
聞こえた声に、真珠は驚愕し。カインは、ムチで打たれた犬のごとく叫びを上げた。
「ノア様……!! 」
そこからは、むごいの一言だった。新たな部屋の主――ノアはカインに暴力の限りを尽くし、動けぬカインはただ声にならぬ声を上げるばかり。
あまりにあんまりな仕打ちに真珠が間に割って入るも、カインがこれを夢と認識していないせいかアベル様の時のように介入は出来なくて。
真珠のノアへの怒りが臨界点に達した時、それは起こった。
「はあーあ、アベルは雲隠れ、ペルルは自宅か。つまんないなあ」
夢の――カインの記憶の中の、ノアが核心を話し始めたのだ。
「アベルをもっと追い詰めて楽しんでからペルルを差し出して貰いたかったのに。あんまり壊したくないんだよねえ、ペルルの方は」
「……!! 」
「だって僕の妻になるんだよ?まあ、カインみたいなバカはしないけどさあ! 」
「〜〜!! 」
「うるさいよ、バカ犬!!ペルルには進んでここへ来てもらうんだ、合法だろう?次はどうしようかな、アベルに愛想をつかせるか?ペルルを崩すか……ふふ、楽しみだなあ」
(こいつ……!!とんでもない腹黒野郎じゃない!! )
垣間見えたノアの本性と目的に、真珠の怒りの炎がめらりと燃える。
(ていうか何??私を略奪とかいうクソ下らない野望のためにアベル様を傷つけやがったの??はああああ? )
真珠が思う間にも、カインの腹をもう一蹴り。徹底したクズ振りに真珠は打倒ノアを心に決め、カインの目覚めと共に意識を光へと溶かしていった――。
「はあ……」
最悪な気分での、起床。起きてすぐ目に入ったカインの怯えた目に、真珠は彼の髪をゆるりと撫でる。
「ひどい目に遭ったのね、カイン。大丈夫、あなたの敵も私が取るわ」
にこりと笑って、もうひと撫で。そうしていると、控えめなノックのあとガチャリという音と共に部屋のドアが開いた。
「ペルル……? 」
「アベル!おはよう御座います、旅の疲れは大丈夫ですか? 」
「え、ええ……」
「? 」
アベルは、事情を何か掴めないかと入った部屋に居た先客――ペルルに面食らったようで、軽く目を見開く。
実のところカインの髪を無でるペルルに嫉妬めいたものを感じたのだが、ペルルのあまりに潔白そのものの態度に肩透かしを食らった、というのが正しい所だ。
「もしやカイン様の夢の中へ? 」
「はい!結論から言うと、ノアの野郎……いえノア様は真っ黒でしたわ」
「!そう、ですか」
「何でもアベルから私を横取りしたくてゆすりをかけてたみたいで!!私腹が立って腹が立って!! 」
「な……! 」
かつての婚約者の部屋へと赴いている妻。そんなシチュエーションも吹っ飛ぶノアの思惑に、アベルは驚愕する。しかし肝心の渦中の獲物こと真珠の心のうちはそれどころではなかった。
「そんなくっだらない理由でアベルを弄ぶなんて許されません!!カインをいじめてたのも含めて10倍にしてやらないと気が済みませんわ!!」
「い、いや私のことはどうでも」
「良くない!!です!! 」
言葉と共に、真珠はふんふんと鼻を鳴らす。そう、カインの事も勿論許せないが、真珠の逆鱗に触れたのは「ペルルの横取り」を目論んでアベル様を傷付けた点であった。
許されざる罪を前に、真珠の頭は常になくせわしなく動く。そして。
「アベル、私――」
「……ええ!? 」
自分を軸としたおとり作戦を、アベル様に提案するに至ったのだった。
ベルルーチェ邸、昼――。
「本当に行くんだね、ペルル」
「ええ、お父様」
作戦の詳細を公爵に伝え、真珠はにかりと微笑む。
「賊退治、見事果たして見せます! 」
「わあ流石僕とエメロードの子!頼もしい! 」
「「えへへへ」」
そんな真珠にふにゃりと微笑み返す公爵の横で、アベルは複雑な心境を抱いていた。
(今回の作戦、確かにペルルが動かなければ意味がない。しかし……)
アベルが抱くのは、ペルルへの心配のみ。彼女が動かなければ現状を打開できぬ自分に嫌気が差す。そんな思いが頭をかすめ、彼はふるりと頭を振った。
そんなアベルを見、動いたのはもちろん真珠だ。
「アベル、今回はアベルの協力なしには成功などありえません。信じています。わ、私のアベル」
「……!! 」
アベルを想ってはっきりと。でも「自分のアベル」と言い切るときは恥ずかしげに。真珠のそれに、アベルは己の迷いを振り落とす。そして。
「貴女を、必ずお守りします。ご武運を」
一時の別れを皮切りに、二人は動き出したのであった。
ざまぁ要員の嫁〜正規ルート?知りません!愛しの旦那様を私が絶対に幸せにしてみせます!〜 樹 慧一 @keiichi_itsuki
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