第54話~朋樹side~

気が付けば俺は電車の中にいた。



腕時計を見ると時間は残り15分になっている。



そして、目の前に黒スーツの車掌がいた。



「自分たちが償う理由がわかったか?」



そう聞かれても、俺は頷く事ができなかった。



生きている人たちはみんな苦しむだけじゃなく、自分から命を絶ったり人を殺してしまっていた。



そうなった責任が自分にあるのなら、確かに償うべきかもしれない。



だけど……死んで行ったみんなだって苦しんでいた。



人の何倍も苦しい生活をしていたのに、死んでもなお苦しまなければならないというのが、俺には理解できなかった。



「苦しんで死んだ仲間がここに来てまた苦しまなきゃいけない理由は?」



「親より先に死ぬという事が一番の罪だからだ」



「でも……!」



「選んだのは自分たちだ」



その言葉に俺は車掌を見た。



「49日間で解放され、成仏できる道を自分たちで選んだんだ」



「選んだ……?」



「そうだ。自分たちは覚えていないだろうが、親を残して死んだ人間には2つの道が用意されている。


1つ目は、いつ成仏できるかわからない石積を続けること。2つ目が、49日間だけ苦しみを味わい、成仏すること」



「俺たちは自分でそれを選んだのか?」



そう聞くと、「そうだ」と、車掌は頷いた。



「苦しみを感じても、確実に成仏できる方を選んだんだ」



そうだったのか……。



「俺の記憶はまた消えるのか?」



「消える」



「今、見てきたことも全部……?」



「……そうだ」



そう言われ、俺はその場に膝をついた。



少しでも憶えていることはできないのだろうか。



みんなの顔や名前だけでいい、電車内での恐怖を軽減させる方法はないんだろうか。



「あの……っ!」



「それは無理だ」



言葉を続ける前にそう言われ、俺は目を丸くした。



「え……?」



「お前が『少しでも記憶をとどめておくことはできないのか?』そう聞いてくるのは、10回目だ」



「10回目……?」



「そうだ。この電車を繰り返すたびにお前は最後まで残り、そして今日のように自分のいなくなった世界を見てきている。そしてすべて、忘れている」



「そんな……!」



目の前が真っ暗になる。



グラグラと世界が歪んでいるような感じがして、気持ちが悪い。



「そろそろ時間だ。残り、29」



車掌がそう言い、フッと姿を消した。



「まっ……!」



引き止めようとした手は空を掴み、そして俺の意識は暗闇へと引き込まれていったのだった……。



穂香~side~



田舎の、小さな駅舎が見える。



改札口の向こう側にすぐホームが見え、線路は1つしかない。



あたしの前をヒラヒラと踊るように飛んでいた青い蝶は、駅の入り口をスイッと抜けてホームへと出た。



あたしはその美しさに見惚れたまま、フラフラと無人改札を抜けホームへと立った。



「あれ……?」



ホームへ出たのはいいけれど、さっきまで人を誘うように飛んでいた蝶の姿はどこにもなくて、あたしの視界に真っ黒な電車が映った……。












END


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自殺列車 西羽咲 花月 @katsuki03

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