第53話~朋樹side~

目を開けると、目の前に穂香の遺影があった。



ここは穂香の家か……。



周囲を見回してみると、綺麗に整頓されたリビングで俺はホッと胸をなで下ろした。



時間が遅いからか家の中を動き回っている人はいないようだ。



静かな部屋の中俺は生きていた頃の穂香の写真を見つけていた。



テレビ台の上に置かれている幸せそうな家族写真。



幼い穂香の誕生日の写真らしく、ケーキを目の前にして少し照れくさそうにほほ笑んでいる。



その写真に心が温かくなるのを感じていた。



俺も、こういう時期があった。



誕生日はいつだって特別で、沢山の「おめでとう」と、ケーキをもらう。



小学校の頃はよく友達を呼んで小さなパーティーもしたっけ。



穂香もきっとそうだったんだろう。



隣の写真には友達と一緒に写っている写真が飾られている。



穂香はきっと幸せに暮らしていた



それがわかると、嬉しくなっている自分がいた。



だけど、その分きっと家族は悲しんだだろう。



俺の両親のように毎日写真を見つめて泣いているかもしれない。



それが、俺と穂香の償いか……。



そう思ったとき、リビングのドアが開き部屋に電気がついた。



足音に気づかなかった俺は驚いて振り返る。



すると、そこには1人の男性が、両手足を固定されガムテープで口を塞がれた女の人を抱えるようにして立っていた。



この人……。



俺は写真に視線を戻す。



何枚かある写真の内、一枚にその人物は写っていた。



穂香の隣で笑っている男性。



きっと、父親だろう。



だけど、その表情は全く違うものだった。



写真の中の優しさなんてかけらもない、まるで鬼のような顔をしている。



父親は女の人とソファに座らせると、その前に立った。



女は明らかにおびえた様子だ。



顔は青白く、小刻みに体を震わせている。



「これを見ろ」



そう言うと、父親は穂香の遺影を女へと付きつけた。



女の表情がこわばるのがわかった。



「俺は穂香の父親だ」



そう言った瞬間、女は大きく目を見開きブンブンと左右に首を振った。



まるで、懸命になにかを謝罪しているようにも見える。



「お前が穂香をイジメていたんだろう!」



低い声で女を脅す父親。



女は「うーうー!」と、唸り声を上げて抵抗している。



「イジメに関わった奴らはこっちで全員把握している。ラインイジメってやつだろ? 他の学年まで巻き込んで穂香をイジメやがって!」



そう怒鳴り、父親は女の首に手をかけた。



「うちの娘をバカにしやがって! お前らみたいなクズのせいで娘は死んだんだ!!」



首にかけられた手にギリギリと力がこめられ、女の顔が真っ赤になる。



「死ぬのはお前の方だろ! 全員この手で殺してやる! 1人ずつ、順番にな!」



そう言い、笑い声を上げ始める父親。



女は白眼を向き、赤かった顔が青くなっている。



このままじゃ本当に死んでしまう!



慌ててかけより、その手を掴んだ。



でも……俺の手はすり抜けてそれを止めることもできなかったのだ。



「やめてください! 穂香はきっとそんな事望んでない!!」



耳元でそう訴えかけるが、声も聞こえてくれない。



「いいか、これが穂香の呪いだ! 最後の最後でお前たちにかけた呪いだ!!」



次の瞬間、女から力が抜けて行ったのを見た。



今まで必死で体をよじっていたのが止まり、見開かれた目は白くなり、そして動かなくなった。



それでも父親は女の首を絞め続けた。



大声で笑いながら、穂香の呪いだと言いながら……。

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