ほの字のほ 😻

上月くるを

ほの字のほ 😻




 いは いちべの い 🪅     

 ろは ろうかの ろ 🌱

 はは はなおの は 🎀

 には にちこの に 👘

 ほは ほのじの ほ 🥰



 もの心ついたときから、惣兵衛そうべえは近所の子どもたちと一緒にうたっていました。

 でも、どこか謎めいたこの歌、まさか自分の出生と関係があるなんて……。(笑)



      *



 惣兵衛の父親の市兵衛いちべえはしがない下級侍、食うや食わずの日々を送っていました。

 ある年の元旦、お世話になっている上席のお邸へ新年のあいさつに出かけました。


 ひとり者の貧乏武士のことですから、正月もふだんどおりヨレヨレの羽織袴です。

 つい肩身が狭くて座敷の末席に畏まって正座していましたが、足がシビレて……。


 ばたんと廊下にひっくり返ったところへ通りかかったのが、お女中の二千子にちこさん。

 やさしく介抱してくれた女人にょにんのあまりの美しさに市兵衛はぼうっとなりました。



      *



 それからしばらく経った早春の日、市兵衛がぶらぶら歩いて行きますと、向こうのほうから、観音さまのようにふくよかな顔立ちの女人が、しなしなとやって来ます。


 ん? 見覚えが……と思えば、あのとき介抱してくれたお女中ではありませんか!

 と、市兵衛の目の前まで来たところで、女人はとつぜん、前のめりになりました。



 あっ、朱塗りの下駄の鼻緒が……。🧕

 市兵衛はすぐに直してやりました。🥷



 まあ、ご親切なお侍さん……と思えば、あなたはあのときのシビレきらしさん!

 ふたりは意気投合して夫婦になり、明るい笑い声の絶えない家庭を築きました。


 気立てのいい夫婦はご近所にも慕われて、いつの間にか歌が生まれていたのです。

 なんともめでたくて朗らか、江戸下町の情趣たっぷりな小噺こばなしではありませんか。


 

     * 



 いは 市兵衛の い 🪅

 ろは 廊下の  ろ 🌱

 はは 鼻緒の  は 🎀

 には 二千子の に 👘 

 ほは 惚の字の ほ 🥰 



 ガキ大将になった惣兵衛はちびっ子連を引き連れ、今日も高らかに歌っています。

 おいらのおっかさんは天下一の別嬪べっぴんで、ニコニコ福の神、観音さまなんだぞ~!


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