エピローグ

 風紀委員会のおっさんと医師は暗い廊下を歩いていた。会議室の馬鹿騒ぎの声がまだかすかに聞こえてくる。


「予想通りの展開、と言ったところですか」

「ああ。仮5号がどんな能力を持っているのか、もう少し見ておきたいからな」

「そう言えば1時間ほど前になかなか興味深い検査結果が出たのですよ。これには私だけでなくスタッフ全員が色めき立ちました」

「ほう。話してくれ」


 医師はおっさんの耳に顔を近づけると囁くように言った。


「仮5号は精子と卵子から誕生した個体です。しかも母体を使った自然分娩の可能性が高いのです」

「それは、驚きだな」


 政府主導で同性婚を推進した結果、全ての人民は精子と精子、あるいは卵子と卵子による人工授精で作り出されている。仮5号のように精子と卵子によって発生した個体は、現代の社会では基本的に認められていない。


「そう言えば本メンバーの5号は3年間行方不明だそうだな」

「はい。聞くところによると昔のままの恋愛観を持つ種族を探して旅しているようです」

「ふっ、くだらぬ男だ」

「それではここで失礼します。まだやり残した業務がありますので」

「ああ、今日はご苦労。仮5号の観察、頼んだぞ」


 風紀委員会のおっさんは玄関を出ると、待機していた公用車に乗り込んだ。頭の中では先ほど医師から聞いた言葉がリフレインしている。


「自然分娩の個体と昔の種族を探す男か。厄介だな。もし連合政府にとって危険な存在となった時には……」


 空は雨雲に覆われていた。月も星も輝かぬ空の下、公用車は静かなエンジン音を残して夜の中へ消えていった。

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ゲイ1号からゲイ5号、5人揃ってゲイケメン! 沢田和早 @123456789

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