第18話 最後に見た蒼い花
蒼い花が咲き乱れる場所にいた。
綺麗な場所なのにどこか寂しくて息苦しさがある。
ぐるりと辺りを見回して、視線が止まった。
そこには一人の女性が立っていた。
姿はよく見えないのに性別がわかるってのはおかしな話だと思う。
知らなければ性別さえ判断できないくらい姿がぼやけている。
それでも、俺には彼女の表情が今にも泣きだしそうに見えた。
「ん……」
酷い頭痛と暖かさを感じた。
真っ暗だった視界に見慣れた木目の天井が映る。
果樹園のいつも使っているベットの上にいるようだ。
「あら、目が覚めたのね。間に合ってよかったわ」
凛とした声が響く。
声の方へ頭を動かすと、ベットの脇に豪奢な濃紺のドレスを着た女性が座ってい。
フリルやベルトが至る所についており、なんとなくゴスロリとパンクを合わせたような見た目だ。
何よりも目を引くのが、腰くらいまでありそうな長髪と整った顔立ち。
髪は毛先に近づくにつれ明るい水色のグラデーションになっており、僅かに発光しているようにも見える。
顔は人形に命を吹き込んだと言われても信じられるような浮世離れした美しさだ。
……なんだか知っている顔のような。
つい最近、どこかで見た気がする。
それもTVとかではなくて、もっと身近で。
あと少しで思い出せそうなところで左手が誰かに握られていることに気が付いた。
一瞬、目の前の美女かと思ったが違う。
俺から両手とも見えているし、何より彼女がいるのはベットの右側で左手を握るならもっとこちらへ寄らなくてはいけない。
「……」
「リゼちゃん?」
赤髪の少女はベットに持たれるようにして安らかな寝息を立てている。
眠りながらも手を握っている。
よかった、無事に帰ってこられたのか。
そう思うと同時に記憶が蘇る。
熊のような姿をしたモンスターを倒した後、森の奥から現れた骸骨兵の攻撃によって俺のHPはゼロになった。
寒気を感じ、意識が遠くなっていく中で最後に少女を見た。
夜空に溶けるような色合いのドレスを纏い、燃えるな蒼い髪をなびかせて現れた。
すぐ隣にいる彼女のような――。
「え、あの時の……なんで生きて……え、ええ?」
理解できない状況に脳が処理落ちしたかのように考えが纏まらない。
「混乱しないで。大丈夫、これは夢ではなくて現実。貴方はちゃんと生きているから」
「いや、でも、あの時はHPがゼロになって……」
ずいっと目の前に片手で握れるくらいの空っぽになった小瓶を差し出される。
「蘇生薬よ。文字通り、死者を蘇らせることができる薬。貴方が完全に死ぬ前に使ったから、こうして生きているのよ」
「うっわ、やっぱり死んでたのか」
思ったことがそのまま口に出てしまった。
すると少女は少しだけ呆れた表情になる。
「……死んでからそういう反応する人、初めて見た」
「そんなこと言われても。生き返ったって実感もないしな」
「ま、冒険者なら勝手に蘇るけどね」
「マジかよ。ならなんで蘇生する薬なんて使ってくれたんだ?」
「逆に聞くけど……あの時、私に言ったこと覚えてないの?」
「ん……? えーと、あー……」
「そう、覚えてないのね」
「なんて言ったんだ?」
「……教えない」
まったく覚えていない。
覚えている限りでは何も言葉を発していないはずだけど、錯乱して変なこと言ってないか心配になってきた。
「そんなことより……この前は悪かったわ。あんなことを言ってしまって」
「あんなことって?」
「ほら、お店で最後に言ったこと。貴方じゃ誰も救えずに死ぬだけだからって。少しだけ言い過ぎたと思ってたから……ごめんなさい」
「……」
一瞬、何のことかわからなかった。
今のは
なぜ目の前の彼女がそれを知っているのか。
そこまで考えてようやく既視感の正体に思い至る。
「え、龍ケ崎さん!?」
髪色など元の世界と違う部分もあるがよくよく見てみれば見たことのある顔だ。
「……いままで気づいてなかったの? 貴方の友達はすぐに気が付いたのに」
「俺の友達って……まさか
正直言って生き返ったことよりも今の話の方が大きな衝撃を受けた。
「色々と話さなくちゃいけないこともあるけど――今はゆっくりしなさい。その子もあなたのこと心配していたし、出発するのは明日以降になるでしょうから」
e世界エンディング くろね @kameneko
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