窓辺 第22話

 絵画が壁中に所狭しと並べられた、天井の高い応接室。人物画の多いその部屋は、あちこちから見られているようで、慣れない人間には居心地の悪さを与えそうな部屋だった。その部屋の中央、見るからに高級そうなソファに神父は座っていた。

「お待たせしてすみません。僕に用って何ですか?」

部屋に入るなりシャーロックは来客へそう尋ねる。

「久しぶりですね、シャーロックくん」

神父は立ち上がりシャーロックへと近づくと、そう言った。長身の男は少し困ったような表情をつくると

「すみません。どこかでお会いしたことが?」

と言う。

「ああ、覚えていなくても無理はないです。なにせ最後に会ったのは十四年も前の話ですから、」

神父はフルフルと首を振る。

「十四年前、」

十四年前というとシャーロックが九歳くらいの頃だ。そんな時を最後に、会っていない人など居ただろうか。

まして神父になるような人など、考えるような表情のシャーロックに神父は少し微笑んで言った。

「僕ですよ、レイです」

レイ。

レイとは確か、この家と古くから懇意の家の養子の子ではなかっただろうか。

確か、、五年前に屋敷が焼けて、主人の遺体が見つかっていたはず。

そこの養子であるレイは、遺体こそ見つからなかったが、どこにも姿が無かったことから死んだ事になっていた。

なんにせよ、貴族の子だった筈だ。生きていたとしても、神父になるなど考えられない。

レイと名乗った神父はシャーロックの心を読んだかのように

「貴族だったレイですよ。今は神父に転職しました」

と言う。

「本当にレイくん?」

シャーロックはレイをまじまじと見た。

確かに、少し面影はあるかもしれない。

二重のハッキリした瞳に、凛々しい眉毛、高い鼻筋は記憶の中のレイの像と一致している。

何より、あの瞳が全く同じように思えた。

「そう言えば、“初めての友達”とは今でも連絡を取りあっているんですか?」

レイはそう言ってシャーロックの目を正面から真っ直ぐに見る。

シャーロックは驚いたように少し目を開いた。

初めての友達、この話しをしたことがある人間はレイとステラしかいない。

「っは、本当に、」

シャーロックは呟く。

「いいえ、残念ながらもう八年は会って無いです、レイくん」

「どうやら信じていただけたようですね、」

レイは満足そうにそう言った。





 「生きていたんだね。良かった。でも、どうして神父に?」

ソファに腰掛けたシャーロックは目の前人物に尋ねる。

「すみませんシャーロックくん、今日は昔話をしに来た訳ではなく、もっと大きな、野望の話をしに来たんです」

「、、野望?」

シャーロックは繰り返した。

「ええ、僕の野望に貴方はきっと賛同してくれるだろうと思って訪ねて来たんです。こちらとしても、貴族の貴方が居ると心強い。チームの名前は、」

レイが言い切らないうちにシャーロックが遮る。

「ふふ、すみません。僕、怪しいことには関わらないようにしているんです」

そうキッパリと断った。

今までにも、以前話したことがあると言ってシャーロックに近づいて来る者は大勢居た。

大抵が話したことがあるのかもあやしいような者ばかりだったが、そのどれもがシャーロックの持つ有り余る程のお金や、地位、名誉が目当てだった。

シャーロックは、自身に近づいて来る人間が見ているのは自分ではなく、自分の持つ財産や身分だとよく分かっていたので騙されたことは一度も無い。

ただ、自分の一番の秘密を話したことがあるような親しい間柄だった者までもが、自分をそういう目で見ているということに、どこかやるせなさをおぼえる。

「それに、仕事の話しならお父様に言った方が良い、僕には何の権限も有りませんから」

そう言うと、シャーロックはソファから立ち上がりレイに背を向けた。

「客人がお帰りになるよ」

そう使用人に声をかける。

「、、初めての友達に会いたくは無い?」

レイが呟く。

その言葉は広い部屋にやけに大きく響いた。シャーロックは声の主をゆっくりと振り返る。いつも浮かんでいる口元の笑みは消えていた。

入って来た使用人を手ではけさせる。

シャーロックはレイを見つめるだけで何も言わなかった。

レイもシャーロックを見つめ返すばかりで何も言わない。長い長い沈黙の後、レイは口を開く。

「損は無いだろう?」

そう言って小首を傾げた。

「チーム名は『REBEL CLOWNS』」

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反逆のピエロたち 晴美彩雲 @harumi_21

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