第24話 大学生になり、初めてできた彼氏に家族のために作ってもらった料理は思い出の味

「家について行こうか?」


ゆうとに心配そうに顔を見ながら、その言葉を言われて、あたしはうなずきそうになるのを我慢した。

うなずけばいいものを我慢した。

なんでなのかはわからない。

でも、ここでお父さんと話しをちゃんとしないようじゃダメだと思った。


夕方に話を聞いたお母さんが、帰ってきてくれて、二人でお父さんの帰りを待った。

お母さんは、何かを言いたげだったけれど、何も言わないでいてくれた。

だからこそ、涙も我慢できた。

ご飯もあれからおいしく食べれていない。

夜になりお父さんが帰ってきた。


「ゆり…話をしようか…」

「はい…」


椅子に座ると、そう口火をきられる。


「ゆり、どうして嘘を言ったんだ?」

「それは…その、正直に話すと反対されると思って」

「そんなことは…」

「ないってことはないでしょ。あたしがしたいことってわかるの?」

「それは、今のまま立派な医者になって…」

「違うよ。それはお父さんが望むあたしの姿でしょ?あたしが一番なりたいのは、いい人と幸せになることだから!お父さんは何もかも自分のことじゃん」

「そんなことは…」

「ないっていうの?お父さんがやることは自分の都合がいいことばかりでしょ!」


あたしはその言葉を言うと、リビングを飛び出した。

家も飛び出そうとしたところで、家の前にゆうとがいた。


「どうして?」

「ゆり…もう一度家に入ろう」

「いや!ゆうとはお父さんと話せっていいたいの?」

「違う。僕はさ、食べてほしい料理があってさ」

「こ、こんなときに食べない。お父さんもいるのに」

「じゃあ、食材無駄になっちゃうんだけどいいのかな?」

「そ、それは…」


あたしは、見せられた食材になんともいえない表情になる。

食材を無駄にすることはできない。

ゆうとに出会ってご飯の大切さ、食材がどうやって作られているのかも、ゆうとの実家に行くことによって知ったのだから、余計にだった。

あたしは仕方なく、ゆうとと家の中に戻った。

難しい顔で座っていたお父さんがゆうとを見たときに立ち上がったが、それよりもお母さんがゆうとに声をかける。


「ゆうと君、待っていたわよ。今日はお願いね」

「は、はい」

「お、お母さん、なんでこの男を…」

「この男じゃないでしょ、ゆうと君よ。あと、ゆうと君にはあるものを作ってもらうために来てもらったのよ」

「そんなものを…」

「食べられないって?それは作ったのを見てからにしてね」

「うぐ…」


さっきまで何も話してくれなかったお母さんが、ゆうとが来た途端に話始めたということも含めて、最初から計算していたということだろう。

さっきまで威勢がよかったお父さんを黙らせてしまうのだからさすがというべきだろうか…

そんなことを思っていたら、ゆうとが食材を取り出して作り始める。


「すみません、先に言っておきます。もしかしたら、言っていた味になるかわかりません」

「いいのよ。それでも」


お母さんにゆうとが何を言っているのかはわからなかったけれど、食材はでてきた。

ジャガイモに、ミンチ肉、玉ねぎ、レタス…

どういう組み合わせなんだろうか?

そう思っていたが、作り始める。

ミンチ肉はボールにうつし、塩コショウ、片栗粉をふって混ぜ合わせている。

しっかり混ざったところでラップに包んで四角に広げ、それを切っていく。

これはなんだろうか?

玉ねぎは剥いたら、醤油やみりん、砂糖にお酒、おろしにんにくを合わせた調味料にすりおろして合わせていく。

次に四角に切ったミンチ肉を油を引いたフライパンで焼いていく。


ミンチ肉で何かを作っているみたいだけれど、料理経験があまりないあたしではそれが何かわからない。

それでも焼いている間にお皿に洗ったレタスを敷き、ジャガイモは綺麗に洗って、それなりの大きさに切って小麦粉を軽くまぶして揚げる。

これが付け合わせだということがわかった。

さらに出てきたコーン缶を開けて、用意している。

ミンチ肉をしっかりと焼いたところで、余分な脂を拭き取ると、作っていたソースを絡める。


ソースを入れたところで、部屋ににおいが立ち込める。

それで何かわかった。

これはミンチ肉を使ったステーキだということが…

しっかりとソースに絡まったところでコーンを加えて、さっと炒める。

それをレタスを敷いたお皿に盛りつける。

さらに付け合わせのポテトフライを添えたところで料理は完成した。


運ばれてくる料理を見ても、誰も無言だった。

何も話さない。

それでも、全員が食卓についた。


「「いただきます」」


あたしとゆうとが声をそろえて言うのを見て、お父さんの目が見開いたような気がしたが、それを気にする余裕もなく、あたしは熱々のお肉をほおばった。

ミンチ肉で作ったサイコロステーキ。

それは美味しかった。

玉ねぎで作ったあのソースが絡んで、どこか懐かしいような…


「いただきます」


お母さんも一口ほおばったところでうなずく。


「うん、ファミレスで食べたステーキね」


その一言で、あたしは思い出した。

昔というか、あたしの小さいときはそれこそ月に一度はファミレスに行っていたのだ。

そこにあったステーキやハンバーグなんかが好きだった。

もう忘れてしまった味だと思っていた。

でも、ここにあるステーキの味はまさしくそれだった。


「いただきます」


美味しそうに食べるあたしとお母さんを見て、お父さんも口をつける。

ゆっくりと口に運んだけれど、一口、二口と食べると言う。


「美味しいな。それに…」


お父さんはあたしの方を見てくる。


「ゆり、ゆりはゆうと君だったか?が好きなのか?」

「そうよ。」

「そうか…もう子供じゃないということか」


どういうことだろうかと思っていたら、お母さんが笑う。


「もう、あなたは不器用なんだから…」

「だが、ここで怒らないと、嘘を簡単につく人間になってしまうかもしれないんだぞ」

「本当にそう思う?」

「いや、ゆうと君。」

「はい」

「わたしはね。ゆりには幸せになってほしいと思っている。だから、楽しそうにしている今のゆりのまま頼んだぞ」

「はい」

「ちょっと、お父さん。さっきまでの感じはなんだったのよ」

「それは…親としてだな」

「もうー!」


その後は、最初のことが嘘だったかのように、ご飯が美味しく感じて、時間もたつのが速かったのだった。

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彼女に食べてもらう手料理は結局思い出の味 美しい海は秋 @utumiaki

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