第23話 朝食と現実

朝起きて、隣に好きな人がいる。

それがこんなにもうれしいことだということを初めて気づいたあたしは、ゆうとの手を握っていた。

穏やかに眠っているその姿に、昨日の夜を思い出して、頬が赤面する。

お父さんをだましているようで、悪いけれど、それでも仕事が忙しいと帰ってこないのもお父さんなので言うタイミングがなかなかなかった。

それでもゆうとは、この旅行が終わったら、次はあいさつをしてくれるということになっている。

二人だけしかいない部屋で幸福を感じながらも、あたしは起こさないように頬に口をつけ、そして朝の支度を始めた。


ゆうとが起きてくるころにはある程度の支度をし、朝食までの時間ゆっくりする。

二人でゆっくりしていると、朝食まで三十分を切ったところで身支度を整えていたゆうとが話しかけてくる。


「すまない、ゆり。ちょっと連絡しておいてくれないか?」

「えっと、どこに?」

「隣の二人にだな。起きてるとは思うんだけどさ」


その言葉でここにきているのがあたしたちだけではないということが思い出し、連絡をする。

一度メールを送るが、返信がない。

ここは一応電話のほうがいいかな。

朝食まであと、三十分もないので、さすがに起きているとは思っていたが数コールしてようやくつながった。


「もしもし、ゆりどうしたの?」

「朝食まであと三十分しかないけど、大丈夫そう?」

「え…えー」


そんな声が大声で響いた後、起きなさいという声が聞こえて…


「ごめん、すぐに準備するから」

「うん」


どうやらゆうとの判断はよかったようだ。

ゆうとも声が聞こえていたのだろう、苦笑いをしていた。

そんなことがありながらも、朝食の時間になり、用意されたものをあたしたちは食べていた。

これぞ朝食といえばいいのか、それとも旅館だからなのか、朝食はご飯にのり、卵など和風で、メインには湯豆腐があり、お味噌汁には海産物が入っていたりとかなり豪華だ。


ただ、朝食を食べ終えれば、後は少し観光をして帰るだけ…

楽しい時間ってあっという間にすぎるということをあたしはこのときはじめて知った。

その後は荷物も片づけて…

主にあいたちを手伝ったのは、いい経験になった。

一人でできなかったことをできるのは本当にいい思い出になった。


そんなことがありながらも時間は過ぎていく。

楽しい時間。

そのまま順調にあたしとゆうとの二人の物語が続くものと思っていた。

ただ、観光をしているときにそれは終わりを迎える。


「ゆり?」

「お父さん?」


急に声をかけられて、そっちを見るとお父さんだった。

どういうことだろうか?

なんでこんなところに?

そう思っていたが、お父さんも同じだったようで、嬉しそうに声をかけてくれる。


「ゆりも、ここに来ていたんだな。」

「う、うん」

「そういえば、お友達と一緒に来ているんだったな。少しあいさつだけしたらどこかいくよ」

「えっと、そんなに気を使わなくていいから」

「でも、ゆりが楽しそうにでかけてるって、お母さんから聞いていたからな、あいさつくらいはしておかないといけないだろ?」

「そうだけど」


どうしよう。

そう思っていたときだった。


「ゆり、どうしたんだ?」

「あ、えっと…」


ゆうとがあたしを見つけて、声をかけてくれるが、本当にタイミングが悪かった。

お父さんの顔が先ほどとは違い、真顔に変わる。


「どういうことだ?」

「あの、えっとこれは…」


こんなときに出会うことになるなんて思っていなかった。

だからこそ、言葉が出てこない。

そう思っていたときだった。

ゆうとがあたしの前に立つ。


「すみません。僕が悪いんです。叱るなら、僕を怒っていただければと思います」

「何を言っているんだ?わたしはゆりにどうしたのかと聞いているのだ」

「すみません」

「もういい、帰ったら、話をするからな」


その言葉とともに、お父さんは去っていった。

どうしたらいいのかわからない。

偽りの楽しい旅行が終わったのかもしれない。

あたしはその後のことをあまり覚えていなかった。

そして気づけば家に帰っていた。

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