第22話 夕食と花火

「えっと、これはどういう感じだ?」

「喜べ、部屋は隣同士だぞ」

「いや、それはわかったけどさ、その前に言った言葉の意味を考えてるんだよ僕は…」

「ふ…何を言ってるんだ。俺はかなりの善意で言ってるんだぞ。」

「無理だからな」

「どうしてだ?」

「いや、それは…」


今回のゆりとのお泊りの内容は、友達と泊まりに行くというものだ。

だから部屋は別々にとっていて、そのまま泊まるものだと思っていたのだ。

それに対して、じゅんが提案したものはお風呂に入った後にご飯食べて、その後の花火を見るときから朝起きるまでお互いに恋人同士でいようというものだった。

確かに花火は二人で見たかったというのはあるけれど、それでもやりすぎではないのかと思う。

こんなことがばれてしまえば…


「ごめんやけど、一人では決めるのが難しいから、ゆりに聞いてからでもいいか?」

「うん?まあいいけど」


お互いにお風呂の準備が終わり、合流する。

僕はすぐにゆりのほうに近寄った。


「ゆり、あの話聞いたか?」

「えっと、後から一緒の部屋になるってやつ?」

「それだな」

「あたしはいいかなって」

「いいのか?」

「だって、せっかくのお泊りだからね」

「ゆりがいいなら、いいけど」


話しが終わった僕たちは、それぞれのお風呂に入ることにした。

おおー…

やっぱり大きい風呂は少しテンションが上がるな。


「イタ、イチチチ…」

「だから日焼け止めを塗っとけって言っただろ」

「いや、そうだけどよ。こういうときでしか肌を焼けねえんだから、いいだろう…」


そういうじゅんは昼間の海で焼けた肌にお風呂のお湯がしみるのだろう。

あれは痛い。

僕も子供のころ、よくなっていたからわかる。

だからこそ、今はしっかり日焼け止めを塗って、対策をしている。

それにあれは長引くし、皮が完全にめくれるまでに服にその皮がついたりするのも何気に嫌なポイントだったりする。

そんなことがありながらも、いろいろなお風呂を堪能する。

こういうところに来たら、やっぱり露天風呂が一番いい。

もし、ゆりと一緒に入れたらと、少し思ったのはいうまでもない。


「意外と長く入っていたねえ」

「あー、ほら、じゅんが痛がってたからな」

「なるほどー。ゆうとはちゃんと塗ってたよね」

「まあ、ゆりに言われたしな。」

「それはちゃんと塗らないとダメだね」


ちなみに現在お風呂の前にいるのは僕とあいだ。

ゆりはまだ髪を乾かし中で、じゅんはというと、飲み物がいるとさっさと自販機の方に行ってしまった。

ただ、すぐにゆりも出てくる。


「おおー、ゆうとのそういう服。新鮮」

「急に惚気ですか?」

「違うから、ゆうともちゃんと言ってよね」

「いや、あははは…」


こういう話しで男子で入っていくのは難しいのだ。

愛想笑いをしながらも夕食まで時間をつぶした。

なんといえばいいのだろう、こういうところにあるちょっとしたゲームがみんなでやると面白い。

こういうときには卓球をするものところだったけれど、ご飯前に激しい運動をするのが嫌というのと、汗をかきたくないという女性二人の意見によりなかった。

そんなことをしているうちに、夕食の時間になった。


「これは、すごいな」

「旅館って感じだね」

「それじゃ、カンパーイ」

「「「カンパーイ」」」

「からの」

「「「「いただきます」」」」


そこに並んでいるのは、海鮮とお肉だ。

しっかりといただきますを言った僕たちはその料理たちに舌鼓をうった。

海の近くということもありお刺身が美味しいし、それに焼き魚も…

そうこうしているうちに料理も食べ終えて、その時間になった。


「それじゃ」

「ああ…」

「また後でね」

「うん」


こうして各々の部屋に入る。

アパートに来ていることもあったから、緊張しないと思っていたけれど、いざ二人きりになると緊張した。

それはたぶん、こういう場所で二人きりになったというのが初めてだったからだろう。


「なんだか緊張するね」

「そ、そうだな」

「ゆうとはどう?やっぱり緊張するよね」

「まあ、そりゃな」

「よかった、お互い一緒だね」

「そうだな」


そう言い合って、目があう。

お互いに吸い込まれるようにして、顔を近づけようとしたときだった。


「ドン!」


びくっとして、お互いにそっちを見ると、どうやら花火が上がり始めたようだ。

部屋から見えるということで、かなり前から予約していたけれど、本当に見えてくるとかなり感慨深いものがあった。

お互いが花火を見る。

どちらかがというわけでもなく、くっついて手を握る。

気づけば花火に映る僕たちの影が一つになっていた。

お互いの温かさを肩に感じながらも二人だけの時間は過ぎていった。

初めての二人だけと思えてしまうような時間に、このまま時間が止まれと思ったのは、ゆりには内緒のことだった。

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