第21話 海と夏と海の家
「いい天気だな」
「ああ、いい天気だ」
「今日の予定は決めているのか?」
「任せておけって、勉強を教えてもらったお返しに、いい予定をちゃんと考えているからよ」
「それなら任せる」
「ああ…簡単に言っておくが昼は海、夜は花火だ」
「なるほど」
確かにそれはいいスケジュールだった。
田舎にいたときに行ったことはあったが、どれも家族と一緒だし海は海、花火は花火で個別に楽しむものだった。
同じ日にできるというのは、そういうものを調べるというところもさすがというべきか…
ただ、嫌なところといえば人が多いというところくらいだろうか?
花火というイベントが夜に控えているからか、海鮮浴場にはかなり人がいた。
「見失ったりしないのか、これって…」
「どうなんだろうな?でもこういうときのために携帯を持っているんだから、大丈夫だろ」
「確かにそうだな。そういえば思ったがゆうとの携帯はごついな。」
「ああ、防水とかいろいろなものがついているほうが、田舎では使いやすかったからな」
「そういうものか…デザインとかは?」
「え?ごついのよくないか?」
「いや、わからん」
「そうか?」
こういうごついのが同じ男だと気にいられるものだと思っていたが、そういうわけではないらしい。
それにしても遅い。
「なあ、遅くないか?」
「そうだな。」
「ちょっと僕が見てくる」
「あ、おい」
僕は女子更衣室がある方向に向かって歩いていたときだった。
チラッと見える。
そして声が聞こえる。
「ちょっと、やめなさい」
「やめてください」
「いいじゃねえかよ」
「人が待っているんです」
なるほど、ナンパというやつか…
僕はそれに近づいていく。
何を言えばいいのかなと考えながら近づいたときだった。
「いた」
その声が耳に聞こえたときに、体が勝手に動いていた。
「おい!」
「んだよ」
「人の彼女に触れるとはどういう了見だ?」
「いや、なんでもないです」
「「す、すごい…」」
すぐに男たちは去って行った。
それにはたぶん自分自身の体が影響しているのだろう。
二人にすごいと言われるくらいには鍛えていた。
というのも、狂暴な姉と残虐な妹からの一方的にもたらされる暴力というなのパシリや雑用なんかを手伝わされていたせいで鍛えることでしかそれをこなせなかった僕は、現在もそれなりに走ったり筋トレをしている。
だからそれなりに筋肉はついているようで、最初にじゅんが見たときも驚いていた。
「大丈夫か二人とも」
「ええ、というかゆうとが来てくれるとは驚いた」
「いや、ちょっとね」
「ゆりがナンパされてるかもって慌ててきた感じ?」
「そういうのじゃ…」
「そ、そうなの?」
「違うの?」
「いや、そうじゃなくて」
「うち、意地悪なことしちゃったかな」
あいにからかわれながらもその後はじゅんと合流した僕たちは、ようやくというべきか海を楽しめることになった。
だが、ここで問題が起こった。
「お兄さん、一緒にご飯行かない?」
「お兄さん、一人ー?」
なんだろうか、女性に声をかけられることが増えたのだ。
戸惑っている僕とは違い、ゆりは抱き着いてくる。
「ゆり!?」
「だって…」
「羨ましいぞ、お前…」
「あんたにはうちがいるでしょうが!」
「いてえ」
いらないことを言って、じゅんがあいに殴られるを見ながらも、十分に泳いだ僕たちはある場所に向かっていた。
お昼は海の家でとるということになっていたので、みんなで向かった。
こういうところで食べる料理というのは、いつもと違い美味しいのだ。
後はラムネだ。
これもこの暑い中で頼むと本当に美味しい。
上着を着ることで声をかけられることが減り、ゆっくり昼食をとることができるようになったのだ。
「いただきます」
「やっぱりうめえな、こういうところの料理は」
「「いただきます」」
「こういうときくらい、あんたもいただきますいいなさいよね」
「なんでだ?」
「うちが恥ずかしいからに決まってるからよ」
そんな会話をしている二人を眺めながら、僕とゆりは置かれている焼きそばと、ホタテの醤油バター焼きを食べる。
それ以外にも海鮮串とフランクフルトなんかがありながら食べていく。
海に反射される景色を見ながら食べる料理は、いつもと違っていて、時間もいつもよりはやく過ぎていく。
夕日に照らされた海を見ながら、僕たちは旅館の一室にいた。
これから始まる夕食や花火に心を躍らせながら…
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