ウワサ(5月下旬)
あのよく晴れた日の放課後、私が瀬奈に心惹かれたその日から、私は彼女を執念深く観察するようになった。大抵の授業は熱心に受けているが、数学の時間だけは別の参考書を使って内職をしていること。一人称が"自分"になったり"私"になったりすること。お弁当は決まってプチトマトから食べること。強そうに見えて、大きな音や気温差に弱いこと。教室からふらっと居なくなる時は、決まって非常階段の入り口で本を読んでいること。日頃から何かにのめり込むことのない淡白な私ではあるけれど、瀬奈のこととなると話は別だった。小さな仕草や相槌1つに尊さを感じ、二人きりの空間に閉じ込めてしまいたいというアグレッシブな衝動に駆られる。瀬奈に関する噂を知ったのはそんな折の事だった。
「ねえ知ってる?北條の元カレの話」
北條の元カレ。その単語を聞いた時、私の頭は軽いパニック状態に陥った。私にとっての瀬奈はボーイッシュな女子校の王子様で、瀬奈に男の恋人がいたという事実は半ば信じ難いことだったのだ。
風に揺れる 美儚 @hakanai
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