小さな世界(6月上旬)

教室の窓から見える空は綺麗だ。世界全体を覆っている果てしなく広い天井は、四角いフレームで切り取られている時だけは、ちっぽけな絵画のように見える。自分の小ささを忘れることが出来るから、ここから見える空が好き。そうやっていつも、退屈な授業と人生から逃れるために心を窓の外へ逃避させる。

「じゃあ、8行目から。北條」

「鳥は羽ばたいた。羨望や悪意や、その他一切のしがらみから逃れる為に、鳥は彼方を目指し」

冷たいガラスのように透き通り、高校生の女の子にしては低めの声音で、瀬奈が言葉を紡ぐ。途端に私は、額縁の中の虚構世界から現実へと引き戻される。そんな自分を認めて、ああ、やっぱり私は瀬奈が好きなんだな、と切なくなった。



瀬奈は異性愛者だ。

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