冬の午後の小話

蕃茉莉

冬の午後の小話

 しんしんと降る雪で世界が埋まりそうな日曜日の午後。

 俺は、コタツで宿題をしていたんだが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。


 目が覚めると、古い家は静まり返っている。みんな出かけているらしい。時計は3時半。もう部屋は暗くなりかけていた。


 雪の日は静かだな。


 まだ半分まどろみの中にいる心地で、コタツの中で足を伸ばした俺は、ぎょっとした。


 コタツの中に、足がある。


 伸ばした足に、誰かの足が触れたのだ。

 一気に目が覚めた。慌てて足を引っ込め、恐る恐る、上半身を起こしてコタツの向こうをのぞきこんだが、誰もいない。

 気のせいか?

 もう一度、そうっと足を伸ばすと、やはり、ふにゃり、と誰かの足に触れた。誰もいないコタツの中に、足だけが?!


 うわああああああ。


 本当に恐ろしい時は、声が出ないのだと初めて知った。その正体を確かめることなんて、恐ろしくてできやしない。必死でコタツから這い出して、なるべく反対側を見ないようにして、隣の部屋に行こうとしたが腰が抜けて立てない。

 這いずるようにしてふすまを開け、隣の部屋に逃げ込んだ。普段使わない部屋は、火の気もなくて凍えるように寒い。

 俺はどうすることもできず、部屋の真ん中で震えながらうずくまっていた。壁に寄りかかったら、壁から何かが出てきそうな気がして、動くこともできない。早く誰か帰ってきてくれ。みんなどこに行ったんだ。


 どのくらい時間がたっただろうか。

ようやく、玄関ががらがら、と開く音がして、雪を落とす足音が聞こえた。

「ただいま」

 買い物袋を提げてコタツの部屋に入ってきた母親は、開いているふすまの向こうでうずくまっている俺を見て、怪訝な顔になった。

「あんた、そんな寒いところで何してるの」

「こっ、こっ、コタツに足が」

「足ぃ?」

 母親は乱暴にコタツ布団をめくると、

「これかい?」

 と黒い長靴を取り出した。


 えええっ。


 足の正体は、長靴だった。

「コタツに長靴なんか入れるなよ」

 逆ギレして母親を責めたが、母親は、

「濡れたから乾かしてたのよ。あんた、寝てばかりいないで、ちゃんと宿題やりなさい」

 なんてこった。

 一気に力が抜けた俺は、寒さと恐怖で固まった身体をよろよろ起こし、盛大にくしゃみをした。

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冬の午後の小話 蕃茉莉 @sottovoce-nikko

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