記憶リセット

Lil chicken

記憶リセット

朝、目が覚めると俺は誰かの家にいた。

「ここはどこだ?」

俺は誰の家でここがどこなのか分からなかった。さらに、

「俺の名前ってなんだっけ?」

自分の名前が分からなかった。自分が何者なのか、自分が動かしているこの体は一体誰なのか、何一つとして分からなかった。


 すると、部屋の壁に何か貼られてあることに気が付いた。誰かの顔の写真、誰かの名前、何かの病気や薬の説明書のようなものが貼られてある。俺はそれをじっくりと目に通した。

「そうか、そういうことなのか」

今、自分に起きていることが大体理解できた。どうやら俺は記憶障害で、眠ると記憶がリセットされるのだと。もう5年も前からだそうだ。

 

 とりあえず俺は顔を洗い、朝食を食べ、着替えることにした。記憶をなくしても、日常的な動作には支障はないようだ。非常に不思議な病気である。

 クローゼットから服を取り出し、今着ている服を脱ぐと、あるものが目に付いた。

「ん?誰の名前だろう?」

俺の左胸に、誰かの名前が描かれたタトゥーが入っていた。先ほど知った自分の名前ではない。おそらく女性の名前だ。気になる。この女性が誰なのか。というか、もっと自分のことを調べる必要がある。


 この女性と自分をもっと知る手がかりはないのかと思い、部屋を見渡すと、ノートのようなものを大量に見つけた。そこには、自分が記憶障害になった経緯や自分の経歴、家族のことや友人関係のことなど、俺に関することがぎっしりと書かれているようだ。俺はそのノートを見ることにした。

「へー、俺はこんなことをしていたのか」

全ての情報が新鮮で面白かった。俺ほど自分に興味がある人間はいないだろう。しかし、また明日になれば今日を忘れてしまう。なんとも言えない複雑な感情だった。


「あれ、この人じゃね?」

しばらくノートを見ていると、タトゥーに描かれている名前と同じ名前の人物が書かれたページを見つけた。その女性と思われる写真も貼ってある。

「めっちゃ可愛いやんけ」

その女性は美しく、可愛かった。俺は一瞬にして心を奪われた。写真を見ただけなのにね。

俺はその女性について書かれていることに目を通し始めた。

「え、俺の彼女!?」

どうやら彼女の名前のタトゥーを入れているようだ。こんな可愛い彼女がいるなんて救いだ。彼女の名前をタトゥーに入れるなんて、どれほど君のことを愛していたのだろうか。

君も俺の名前のタトゥーを入れていたりして…。そんな妄想まで広がってきた。


「会いたいな……」

しかし、そんな気持ちを抱き始めていたのも束の間、

「え、……」

俺は言葉を失った。記憶障害である自分にとって唯一の光は一瞬で消え去った。

彼女はもう死んでいるというのだ。しかも自殺。自殺の原因は俺と書かれてある。自殺したのは2年前のようだ。嘘だろ?俺は彼女に何をした?俺は人を死に追い込むほど腐った人間なのか?

 すると、俺はノートに何か挟んでいることに気がついた。

「なんだこれは?手紙?」

それは彼女からの手紙だった。


記憶がない君へ

私と付き合って2年がたった時、君は事故で記憶障害を患いました。でも私は決して悲観的になりませんでした。いつか治ると信じて。

 私は毎日君に会いに行きました。記憶を失っていても、優しい君が変わることは一日もありませんでした。

 お医者さんに、彼が治る確率は正直0に近いと言われたこともあります。それでも私はあきらめませんでした。だって君を愛していたから。

 けど、君が記憶障害を患ってから3年がたった時、私にとってとてもショックを受けた出来事がありました。それは、君が元カノの名前は憶えていたことです。私の名前はいつも忘れているのに。

 君が私よりも長く付き合っていた人がいたことは知っていました。それでも、君にとって私はそこまでの存在ではなかったのかと思うと立ち直れませんでした。

 だから死ぬことを決意しました。そして死ぬ前に君に、お互いに相手の名前が描かれたタトゥーを入れることを君に提案しました。君はすぐに私の提案を受け入れました。私のことを忘れることがないように。

 私が死んで君に会いに行けなくなっても、そのタトゥーを見れば私の存在を知ってくれるはず。そして、いつか私の名前を忘れない日が来ることを信じています。


手紙を読んで涙が止まらなかった。

言われてみれば元カノ名前だけは思い出せる。でも君のことは知らなかった。3年間も毎日会いに来てくれていたのに。俺は俺自身が憎かった。


 もう絶対に君のことを忘れない、左胸のタトゥーに手を添えながら心に誓った。



朝、目が覚めると俺は誰かの家にいた。

「ここはどこだ?」

俺は誰の家でここがどこなのか分からなかった。さらに、

「俺の名前ってなんだっけ?」

自分の名前が分からなかった。自分が何者なのか、自分が動かしているこの体は一体誰なのか、何一つとして分からなかった。


 すると、部屋の壁に何か貼られてあることに気が付いた。誰かの顔の写真、誰かの名前、何かの病気や薬の説明書のようなものが貼られてある。俺はそれをじっくりと目に通した。

「そうか、そういうことなのか」

今、自分に起きていることが大体理解できた。どうやら俺は記憶障害で、眠ると記憶がリセットされるのだと。もう5年も前からだそうだ。


 とりあえず俺は顔を洗い、朝食を食べ、着替えることにした。記憶をなくしても、日常的な動作には支障はないようだ。非常に不思議な病気である。

 クローゼットから服を取り出し、今着ている服を脱ぐと、あるものが目に付いた。

「ん?誰の名前だろう?」

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記憶リセット Lil chicken @youngsugi0824

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