じぃちゃんと僕
はちこ
第1話
じぃちゃんが入院したのは、夏休みが始まる少し前。大好きなじぃちゃんが病気になるなんて、想像もしたことなかったし、じぃちゃんはずっと変わらずそばにいてくれると思ってた。今年の夏だって、じぃちゃんといっぱい遊ぶ予定だ。きっとすぐ退院する。そう信じてた。
僕はユウタ。小学4年生。父さん、母さんと妹のリリカ、そしてじぃちゃんの5人家族。お笑いが大好きだ。最近はモノマネもする。将来の夢は、もちろんお笑い芸人だ。
じぃちゃんが入院して、僕は毎日見舞いに行くことにした。じぃちゃんは、僕が来るととてもうれしそうに「よーきたな。待っとった。なんかネタやってくれ。」と言う。僕はテレビで見た芸人の真似をしたり、モノマネをしたり、じぃちゃんを笑わせることに一生懸命だった。
「じぃちゃん、知ってる?」
「何や?」
「笑うと、メンエキリョクっていうのが上がって、病気が良くなるんだって。」
「ほんまか、すごいな。」
「そう、すごい。じぃちゃん、僕が孫で良かった。僕が笑わせたら、じぃちゃんの病気もすぐ良くなる。それに、僕決めた。」
「何や、何を決めた?」
「夏休みの自由研究は笑いとメンエキリョクの研究する。じぃちゃん、協力して。」
「おぉ、そうか。ええよ、ええよ。じぃちゃんは何すりゃええ?」
「毎日、体調を教えて。僕が毎日笑わす。」
夏休みが始まった。僕は、毎日じぃちゃんのお見舞い行って、笑わせて、じぃちゃんの体調を聞いた。看護師さんにもインタビューして、ノートに記録を取った。じぃちゃんは元気だった、元気に見えた。
夏休みが終わって、じぃちゃんが一時帰宅できることになった。うれしかった。僕が笑わせたからだ。じぃちゃんのメンエキリョクが上がって、病気が治って、帰宅出来たんだ。そう思っていた。じぃちゃんが帰宅してからも、僕はリリカと一緒にじぃちゃんを笑わせた。いっぱい、いっぱい笑わせた。じぃちゃんはベッドの上で、嬉しそうに笑っていた。
「やっぱり、うちが一番落ち着くなぁ。ユウタもリリカもおるし、ご飯もうまいしな。」
じぃちゃんは、本当に幸せそうだった。じぃちゃんが、嬉しそうで、幸せそうだと僕も嬉しかった。笑うと人は元気になるんだ。そう実感した。僕はやっぱりお笑い芸人になる。そして、じぃちゃんをずっとずっと笑わせて、もう入院なんてさせない。そう決めたんだ。
じぃちゃんは、うちでの生活を楽しんで、次の夏が来る前に天国へ旅立った。僕は泣いた。リリカも泣いてた。父さんも母さんも泣いてた。それに、僕は悔しかった。夏休みの自由研究の結果は、「笑いは人を元気にする」だったのに。実際、じぃちゃんはうちに帰ってきた。そして、みんなで笑って、美味しいご飯を食べて、元気だった。けど、じぃちゃんは旅立った。僕は悲しくて、悔しかった。お笑い芸人になる夢もしぼむほどに、悔しかった。
あれから10年、それでも僕は芸人を目指して、頑張っている。なかなか芽は出ないし、アルバイトも掛け持ちしている。何度もくじけて、諦めそうになったけど、その度にじぃちゃんの日記を読むことにしている。
じぃちゃんの日記は母さんが僕に渡してくれた。上京する時に持たせてくれたんだ。じぃちゃんの日記には僕へのエールが詰まっている。じぃちゃんは今も僕を応援してくれている。
7月28日
ユウタが今日も来てくれた。背中は痛いが、ユウタを見ていると痛みも忘れる。
8月2日
今日のネタは面白かった。食欲が無かったが、笑うとおなかが減った気がする。夕食は頑張って食べよう。
8月10日
少し、熱っぽい。このことは、ユウタには内緒だ。看護師さんにも口裏を合わせてくれるよう、頼んだ。一生懸命笑わせてくれて、自由研究も頑張っている。ユウタをがっかりさせられない。
9月5日
退院が決まった。担当医に頼み込んで、最後は自宅で過ごせるようわがままを聞いてもらった。
10月13日
ユウタとリリカがネタを見せてくれた。子どもながらなかなかうまく出来ている。笑っていると病気を忘れる。
11月4日
ユウタが芸人になって、テレビでネタを見せるのをこの目で見たかった。それはきっと叶わない。
12月31日
今年も今日で終わる。来年はあと、どれぐらい笑えるだろうか。
母さんが言うには、じぃちゃんの担当医は驚いていたそうだ。担当医の診断は、じぃちゃんは年を越せない、だった。でも、じぃちゃんは担当医の先生が思っていたよりも長く家族と過ごせた。先生は言っていたそうだ。
「お孫さんの自由研究のおかげだと、私も思っています。うちの病院では、定期的に芸人さんに来てもらって、ライブをしてもらうことに決めたんです。いつか、彼にも来てもらいたいです。」
僕はあきらめない、芸人になるその日まで。じぃちゃん見てて。
じぃちゃんと僕 はちこ @8-co
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