僕はお笑い芸人(まだ仮免中)

66号線

ユーモアは世界を救う

 僕は将来、お笑い芸人になりたい高校生。いま、国連の表彰式に参列している。



 普段は大人しくて内気な僕だけど、これでもちょっとは発想に自信あるんだ。


 僕は子どもの頃から面白いことや楽しいことを想像するのが好きなんだ。


 まだアマチュアだから、ウサギのぬいぐるみの「うさぴぃ」と、ネコの「ニコル」がお客さん。


 毎日のネタ見せは欠かせないルーティーンさ。


 もっとばっちり練習して、いつかはみんなの前で披露したいな。



 僕は、時々ちょっとユーモアがすぎて、誰かを怒らせちゃうことがあるんだ。


 友達の家でクリスマスパーティした時も、やっちゃった。


 僕はお小遣いを使ったばっかりでお金がないから、100円ショップで交換用のクリスマスプレゼント(略してクリプレ)を買うことに決めた。


 ひとつは真面目に選んで、クリスマスツリーっぽい松ぼっくりのオーナメント。


 考えたら、代々木公園で拾ってくれば良かった。それならタダだし。


 もうひとつは、目玉のオヤジのクリップがついたメモ。


 「墓場鬼太郎」は好きさ、大好きさ。僕のバイブルだ。


 最後のひとつを選んでる時、(まだ仮免だけど)芸人の血が騒いじゃって


 思いっきりネタに走っちゃった。


 なんでもワンコインで買える夢の遊園地で、僕が思う渾身のオチにふさわしいジョークグッズを見つけた。


 僕としては面白いと思ったし、


 僕が面白いと思ったことで盛り上がって、みんなが笑ってくれたら嬉しいなと思っただけなんだ。


 ただ、人生で最大の誤算だったのは、友達がパーティに僕の好きな女の子を呼んでいたこと。


 加えて、どういうわけか偶然にも僕の選んだクリプレが彼女の手に渡ってしまったこと。


 ペラッペラの袋から出てきた僕の渾身のオチ。


 対象年齢3歳以上の、プラスチックのハリボテでできた鏡とイヤリングとリップスティックの「女の子セット」が彼女の目を丸くさせた。


 本当は、誰の手に渡っても幼馴染のイマオにおもちゃのイヤリングを無理やりつけさせようと考えた。


 まさかそうくるとは思ってもみなかった。


 彼女はびっくりしてクリプレの袋を振り回し、その勢いで飛び出た松ぼっくりのオーナメントがケーキにトッピングされた。


 そのままぷんぷんしながら帰っちゃった。「女の子セット」はなぜかイマオのカバンの奥に捩じ込まれていた。


 僕は、いきすぎたユーモアは人を怒らせると学んだ。お笑いって難しいんだね。


 僕は苦い失恋と引き換えに少しだけ大人になったよ。



 その後、僕は人を傷つけない、怒らせないお笑いとは何かを僕なりに考え、


 自作の絵を背景にオリジナルダンスを踊ることにしたんだけど、


 この動画がどーいうわけかウケてSNSで拡散され、


 たまたまある国の大統領の目に留まり、戦意を失った彼は敵地にいる自国軍を撤退させた。


 戦争が終わり、結果として世界平和に貢献した僕は、国連のあるNYでたったいまテレビでしか見たことない偉い人から感謝状をもらったばかり。


 僕のお笑いで世界に再び平和が訪れた。ユーモアって世界を救うんだね。


 僕はたくさんの拍手の中でまたひとつ賢くなったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕はお笑い芸人(まだ仮免中) 66号線 @Lily_Ripple3373

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ