第11話 パーティー


婚約披露パーティー当日。

ルエルト侯爵夫人に気合いを入れて着飾らせられたセシーリアは、少し疲れた顔で控え室にいた。



「大丈夫か?」


王子として正装したアルノルドが、心配そうに隣に座る。

襟が詰まった服に手袋をはめ、帯剣している。

重そうな服だが、それを感じさせないところが王族だなと思う。


「侯爵夫人が楽しそうだった」


セシーリアは慣れないドレスに高そうな宝飾品を着けられ、化粧をされて髪を結われ、すでに疲れていた。


「娘ができて嬉しいんだろうな」


ルエルト侯爵夫妻には子供がおらず、弟夫妻の子供も男ばかりなので娘ができて喜んでいるのだろう。

セシーリアの今日の装いを見れば、それが窺える。


白銀の髪は編み込まれて半分だけ結い上げられ、深い青色のドレスを着ている。

紫色の宝石がはめ込まれたイヤリングとネックレスは、侯爵夫人が貸したものだろう。

以前にパーティーで、ルエルト侯爵に贈られたものだと惚気られた記憶がある。

それを養女であるセシーリアに貸すのだから、溺愛ぶりが窺えるというものだ。



「そろそろ時間です」


時計を確認したユーリーンが、アルノルドに告げる。


「行こうか。婚約者殿」


アルノルドが手を差し伸べると、令嬢らしくセシーリアはその手をとる。


「よろしくお願いします」


にこりと微笑む姿は、先ほどまでの疲れを感じさせない令嬢としてのものだ。


アルノルドがエスコートをして、セシーリアはパーティーの会場へ足を踏み入れた。




第二王子の婚約披露パーティーともあって、王城のホールには多くの貴族が集まっている。

豪華なシャンデリアが輝く広い空間には、色とりどりのドレスに身を包んだ貴婦人や貴族たちがいる。

その視線はセシーリアに集まっており、第二王子の婚約者を見定めに来ているのは明らかだった。


セシーリアの姿を見て涙ぐみながら手を振っているのは、ルエルト侯爵夫妻だけである。

2人に少し微笑みかけ、あとは令嬢らしく表情を保つ。



このパーティーには王と王妃、第一王子も参加している。

賢王と呼ばれている王と、民からの人気が高い王妃である。


王と王妃とは顔合わせしたことがあるが、アルノルドの婚約を喜んでいるようだった。

身元の分からないセシーリアのことを警戒する様子は見せなかった。


『何を考えているのか読めなかったということでもあるけど』


王族なのだから、それくらい当たり前だろう。



「兄上」


アルノルドの弾んだ声に視線を向けると、アルノルドと同じ金色の髪の男性がいる。

瞳は草原のような緑色で、理知的な雰囲気である。

その緑色の瞳がセシーリアに向くと、穏やかな眼差しに刺される。


「初めまして。レンナント・エドヴァールだ」

「セシーリア・ルエルトと申します。お会いできて光栄です」


第一王子であるレンナントとは、会うのは初めてである。

セシーリアがアルノルドと婚約する少し前から、国内の視察に赴いていたのだ。


「弟の婚約者に会えて嬉しいよ」

「兄上にそう言ってもらえて嬉しいです」


あまり嬉しいと思っていないような声色だが、アルノルドは気付いていないらしい。


「アル。宰相が呼んでいた」

「急用ですか?」

「そうらしい」

「分かりました」


アルノルドは、申し訳なさそうにセシーリアを見る。


「すまない。少し行ってくる」

「はい」

「私が側にいるから心配するな」


その言葉に安心したように、アルノルドはその場を離れていく。


『それが心配なんだけど…』


どう考えても、アルノルドを追い払ったとしか思えない。


第一王子と2人きりにされ、気まずいセシーリアである。

第一王子の側近は近くにいるが、明らかにセシーリアの味方ではない。


「私の弟は、君のような女性をどこで見つけたのかな?」

『お前のような身元の知れない女と、どこで会ったのかという意味か』


貴族独特の言い回しに、ため息が出そうなのをこらえる。


「お茶会でお会いしました」

「あぁ、魔物が出たという。そこで弟が見初めたのかな」

「そのように聞いております」


どうせ全て知っていて聞いているのだから、質が悪い。


「弟は、君のどこに惚れたのかな」

「私に聞かれましても…」

「私は、愚かな弟を持った覚えはないんだ」


緑色の瞳が、冷たさを増す。

アルノルドよりも体格の良い体からは、威圧感を感じる。


セシーリアは、感情の見せない瞳で第一王子を見つめ返す。

そして、令嬢らしく微笑んだ。


「奇遇ですね。私も、愚かな婚約者を持った覚えはありません」


ふっと、面白いものを見たかのように口元に笑みが浮かぶ。


「そう願おう」


その言葉を最後に、第一王子は去っていった。



セシーリアは、人に気付かれないように深くため息をついた。



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