サウナニイコウ(エッセイ)

海風りん

サウナニイコウ

このところ、サウナがブームらしい。

最近のサウナブームというものを私は、サウナにすっかりはまってから知った。

水泳が大好きな私は、スポーツクラブに通うことを生活の一部にしている。

たとえ泳ぐのが30分、そのあとお風呂に30分、計1時間しか費やすことができなくても、できるかぎり泳ぐ。これが大切なのだ。

スポーツクラブにはたいていお風呂とともにサウナが併設されている。

毎日通う場所、毎日会う人々。そうすると自然と顔見知りも増えてくるものだ。

その中で強固に誘ってくるお方がいらっしゃった。

「水風呂にはいりなさい!!気持ちいいわよ!!!」

そのスポーツクラブでは主のような存在。入会したての会員さんがいれば、真っ先に話しかけ、なんだかんだと指南する。それをありがたいと思うか、うざいと思うかは微妙なライン。

かくゆう私も、より水泳に適した水着やら、お勧めのヨガマットやら、ご指導ご鞭撻いただいているから、むげにもできない。

湯舟で温まった身体を恐る恐る水風呂へ…いや、足首までが限界。

「なにやってるのよ!こーやるのよ!」

主は水面に倒れこむように背面から水のなかへ飛び込んでいった。

そのときの感想は正直いえば、「冷たい水へダイブなんて!!冷たい!寒い!無理!」

この気持ちに同感な方も多いと思う。

でも……少しだけ耳を傾けてほしい。水風呂は本当に気持ちがいいのだ。

サウナという空間を経た身体にとっては……。


水風呂だけでなく、サウナも、暑い、苦しい、うす暗いなかに人がいっぱいいて、なんとなく怖いというイメージを持っていた。

勇気をもって入ってみても、暑いし、座っているだけで退屈だしとすぐ出てしまう。

でも、ある日、早々に出たくなる気持ちをぐぅっとがまんして、あと少し、そこに座ってみた。

しばらくすると、腕にうっすらと汗がでてくる。しだいにぷちぷちと玉のように汗が浮き出て、みているのも、おもしろい。

そのうち、顔も身体も汗が流れ始める。運動で出る汗とは違って、座って動かずに出る汗は、自分の体内から水分がにじみ出ていく毛穴、一つ一つを実感させてくれた。

流れる汗をぬぐうと、暑いと感じる身体の輪郭を再確認できる。

鏡をみて自分のシルエットを見るのとは違う、自分の肉体の縁取りを身体で感じる。

これはサウナにしかない感覚だと思う。

不思議と暑さも心地よくなり、目をつぶってその感覚を楽しんだ。


充分に温まり、もう限界!というギリギリを見極めたら、水風呂へ向かう。

桶を手に取って水をすくい、汗を流す。

これも躊躇せず、豪快にお水を被ると、シャワーとはちがう、水の塊を被る爽快感がある。

「きゃー!冷たい!!!気持ちいい!!」

とテンションが上がったところで(心の中の叫び、実際は大騒ぎしませんよ)そのまま水風呂の中に身体をしずめる。

これも躊躇せず、一気に入るのがコツだと思う。

さっきまで、熱気に温められていた身体が一気に冷やされて喜ぶのがわかる。

そのあと、水の中でリラックスしていると、なんとも不思議な感覚に襲われる。

サウナとは真逆の身体の輪郭が解けていくような感覚だ。

浮力によって重力から解放され、輪郭が緩んでいく。

輪郭はぼやけていくのに、薄布のようにサウナの熱気を含んだ水がやわらかく身体を包む。

しばらくすると頭をマッサージされてるような酩酊感がやってくる。

そうだね。この気持ちよさを知ってしまったら、誰かに伝えたくなるね。

私は、遠い思い出のスポーツクラブの主に思いを馳せた。


程よく冷えたら、身体をぬぐって、椅子で休む。

もし、休む場所が外にあって、外気の中いられるならこれ以上のことはない。

心が身体を離れ、自由な思考で浮き立つ。

それが昼間なら、青空と自分だけがそこにいる。

それが夜なら、月と自分だけの世界になる。

日常からも、身体からも解き放たれて、自分そのものに戻れる。


この心が浮き上がるような気持ちよさは、サウナから、水風呂、そして外気浴を経て完成する。


そしてまた、サウナへと戻って至福の時間を繰り返すのだ。


この気持ちよさを知ってしまってから、スポーツクラブにさける時間が一時間しか取れないとき、泳ぐのをあきらめ、サウナとお風呂という選択をするようになってしまった。


そこで知り合う人を強引に水風呂に誘うことはしないが、どうしてもこの気持ちよさを伝えたくなって、この文章を書いている。


そして、最後までこの文章を読んでくれたあなたと「そうそう!あの気持ちよさは他にはないよね!!」と言い合える日を楽しみに…今日もサウナにいってきます!

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サウナニイコウ(エッセイ) 海風りん @umikaze_rin

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