第2話 ケモミミ貴族とケモメイド

アルグレイ「おお、そこにいるのは我が愛しきスイカップ、アステル嬢のメイドではないか。こんなところで会うのは正に運命。獣神がボクをアステル嬢との縁を結びをより深いものとすべくキミを遣わしたにあい違いない」


キャロ「そういう貴方様はおっきなパイオツにしか興味がない黒猫族のアルグレイ様じゃないかウサ。どうしたウサ、またお嬢に告白してフラれたウサか?」


アルグレイ「なんと! それを知っているとはやはりキミは神の使徒」


キャロ「適当に言っただけなのに、まさか本当にフラれていたウサか。わっちが買い出しに行くとお嬢に言って出かけてからまだ2時間も経ってないというのに。この短時間でちゃんと告白してフラれてくるとはさすがアルグレイ様だウサ」


アルグレイ「おいおい、そんなに褒めないでくれたまえ! いくら万人に褒められ慣れているボクとはいえ、そこまで言われてしまったら照れてしまうじゃないか」


キャロ「今のどこに褒める要素があったのかわからないウサけど、まぁ良いように捉えるのは個人の自由ウサ。自由万歳! ただこの学園の国語レベルと生徒の読解力については、クレーム入れといた方がいいウサ」


アルグレイ「ところで、アステル嬢のメイドであるキミに折り入って相談があるので聞いてくれるだろうか」


キャロ「見ての通り、今は買い出し帰りで荷物が一杯ウサ。また今度にして欲しいウサ」


アルグレイ「相談と言うのは、実はなるべく内密な話として聞いてもらいたいのだが、ボクがアステル嬢に何度も告白して断られていることについてなんだ」


キャロ「人の話を聞けウサ! このまま無視して立ち去ろうかと思ったウサけど、ツッコミどころが多すぎて足が止まってしまったじゃないかウサ。まず内密な話って何じゃい!ウサ!」


アルグレイ「おぉ、これは失礼したね。内密というのは、内緒にしてもらいたい秘密の話ということなんだ」


キャロ「そんな説明いらねぇウサ! だいたいアルグレイ様がアステル嬢に何度も告白してフラれ続けているのは学園中の誰でも知ってることウサ! なんなら雇用主に定期連絡しているワッチの手紙のおかげで、お嬢の実家の全員が知ってるウサ!」


アルグレイ「なんと! アステル嬢のご両親はもうボクのことをご存じなのか!? これは早々にご挨拶に向かわねばなるまい!」


キャロ「絶対やめろウサ!」


アルグレイ「そうなのか? 言われてみれば、まずアステル嬢にボクの愛を受け入れてもらう方が先かもしれない」


キャロ「アルグレイ様にミジンコのツメの先ほどの常識が残っていたようで安心したウサ。ここ数年で一番のホッとした出来事だったウサ」


アルグレイ「ふむ。だがボクという存在がキミを始め多くの人々に安心感をもたらすかという当然の事実はさておき、いまのボクはアステル嬢の心を射止める方法についてキミからアドバイスを貰おうかと考えているのだ」


キャロ「お、おう……」


アルグレイ「毎日4回以上告白しているのに、アステル嬢は一向にボクの愛に応えてくれない。いったい彼女のどこに問題があるのだろうか」


キャロ「いちいち、ツッコミどころの多い会話をまず止めろウサ! 毎日4回以上も告白してるウサ!? わっちはメイドとしてかなりお嬢と過ごす時間が多いウサけど、アルグレイ様の告白なんて週に一度くらかと思ってたウサ! わっちの知らないところでお嬢がそんなことになっていたとは……。それをおくびにも出さないところはさすがお嬢ウサ」


アルグレイ「多い日も安心!」


キャロ「最低な返しウサ! 間違いなく異世界のメス団体からクレーム来るウサよ! それに問題があるのはお嬢じゃなくて、お前の方ウサ!」


アルグレイ「ボクに問題があるだって!? それはボクの人生において全く考えたことがなかった新しい視点だ! 素晴らしい! さすがアステル嬢のメイドだ! そこに気付くとは天才か!」


キャロ「お、おう……。(いくらアホでも貴族をお前呼ばわりしてしまって一瞬あせったウサが、聞き逃してくれたようでよかったウサ。こいつがアホで助かったウサ)」


アルグレイ「ぜひキミにはボクとアステル嬢が結ばれるために協力させてやろうと思うのだ」


キャロ「国語力! とか言ってもどうせこの貴族様には通じないウサ。仕方がないから協力してやるウサ」


アルグレイ「おぉ、それは良かったな!」


キャロ「国語力! 後で学園にこの学校の国語レベルについてクレームの手紙を匿名投稿してやるウサ」


キャロ「まず、大事なことを2つ伝えておくウサ。よく聞くウサよ!」


アルグレイ「わかった。大事なことなので耳を傾けて聞いてやろう」


キャロ「お嬢攻略指南役たるワッチは、アルグレイ様にとっては言わば師匠みたいなものウサ。これはわかるウサね」


アルグレイ「ふむ。そういうものか」


キャロ「だからアルグレイ様はワッチのことを師匠と呼ぶこと。そしてワッチはアルグレイ様のことを時々『お前』呼ばわりすることがあるウサが、それは師匠が弟子を厳しく指導するためにどうしても必要なことウサ。だからいくら腹が立ったとしても、弟子を育てるための愛の故だと理解して腹の虫は呑み込むウサ」


アルグレイ「そうか感無量だ。ボクの人生において誰かに師事することがあるなんてもう二度とないことだろうからな。安心したまえ、ボクには師匠の厳しい指導をしっかりと受け止める覚悟がある」


キャロ「今の言葉を忘れるなウサ! それともう一つ、ここに募金箱があるウサ」


アルグレイ「んっ? 師匠はいつもそのような募金箱を持ち歩いているのか?」


キャロ「わっちは寛大だから、お前から指導料金は受け取らないウサ。まぁ、下手に金を受け取ってトラブルになるのは面倒というのもあるウサよ」


アルグレイ「なんと! 師匠は指導にあたって金を取らないのか! なんと高潔な! ボクは師匠を尊敬する!」


キャロ「いくらでも尊敬するウサ。ところで、ここに『可哀そうなウサギに人参をプレゼントするための募金箱』があるウサ」


アルグレイ「あるね。つまり? ハッ!?」


キャロ「ククク、この意味がわかるウサね?」


アルグレイ「もちろん! もちろん分かるとも! 師匠の高潔さに恥じない、ボクにノーブラデオブテブラを実践しろということだね?」


キャロ「ノーブラデ? ……ノブレスオブリージュのことウサ!?」


アルグレイ「そう言ったつもりだが?」


キャロ「お前、どれだけパイオツが好きウサか……。ここまで来たら呆れを通り越して尊敬するウサ」


アルグレイ「ふっ。いくらでも褒めて構わないよ」


キャロ「それはお前がどれだけこの募金箱に高潔さを投入するか次第ウサ! って、ちょっ、大金貨!? 幾らなんでもそれは止めろウサ!」


アルグレイ「どうしてだい? 孤児院に寄付するときはいつもこれを入れてるんだが?」


キャロ「お前、それがどれくらいの価値を持っているのかわかってるウサか?」


アルグレイ「うーん。お小遣いとして毎月1枚貰っているから、小遣い一か月分?」


キャロ「貴族恐るべしウサ……」


アルグレイ「だがボクのお小遣いじゃ、寄付先が12カ所しか選べなくてね。まぁ、残念だけど今回はいつもの孤児院には我慢してもらって、人参募金に寄付するよ」


キャロ「ちょっ! 人参募金はもうイイウサ! その大金貨はいつもの孤児院に寄付しろウサ!」


アルグレイ「しかし、それではノーブラが……」


キャロ「大丈夫! ノブレスオブリージュはその孤児院の寄付で十分ウサ!」


アルグレイ「そうか、それはよかった」


キャロ「しかし、アルグレイ様がそれだけお小遣いをもらっていたのも驚きウサけど、そのお小遣いを丸々寄付していたのも凄いウサね」


アルグレイ「それはもちろん、ノーブラ……」


キャロ「それはもういいウサ。そう言えば、金持ち貴族の子息連中がカネにものを言わせて派手な遊びばかりしているのに、そこにアルグレイ様の姿を見たことはなかったウサ」


キャロ「てっきり、アルグレイ様の奇行が原因で友達がいないだけだろうと思ってたウサが、こういう理由があったウサね」


アルグレイ「ふっ。もちろんノーブラ……」


キャロ「少し黙ってろウサ! アルグレイ様の心意気に感動したウサ! ただのパイオツフェチと思ってたけど見直したウサよ! こうなったらわっちもノーマネーで応援してやるウサ!」


アルグレイ「おぉ、何だか分からないが師匠がやる気になってくれたのは心強い。師匠はボクとアステル嬢のキューピーマヨネーズになるのか、それはよかったな!」


キャロ「国語力!」


こうしてキャロとアルグレイのアステル嬢告白大作戦が開始されることとなった。果たして、アルグレイの想いがアステル嬢に届くことがあるのだろうか。乞うご期待。


おしまい

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