お笑いで異世界を統べる男になれるのか!?

閑人

笑いは世界を救う?

「いやいやいや……。どうなってんだ……。」

 

 途方に暮れているところだが、自己紹介をしておこう。

 俺は芸人のまさやん。芸歴ばかりが積み重なり、今や芸歴26年の中堅。しかしながらヒットはほとんど無く、世間の認知度も極めて低い。どういうこっちゃ!

 

「え、日本のどこか?神隠し?」

 

 いつものようにバイトをこなして帰宅途中。突然目眩がして倒れそうになったと思ったら、ここにいた。え、夢?

 

「どこだよ……。遺跡?」

 

 薄暗い空間には極わずかに明かりが灯っている。さながら常夜灯のように、オレンジの薄暗い光。これでふかふかのベッドがあれば即就寝できそう。俺のせんべい布団が恋しいよぉ……。

 

「お前、ついてこい。」

 

「ひぃっ!!誰っ!?なになになに!?」

 

 誰もいないと思っていた空間で、突然声をかけられたら死ぬほどビビるよね?死ぬほどビビりましたよ?声がした方に顔を向けると、確かに人が立っていた。人でよかったー。

 

「早く立て。」

 

 ずいぶんぶっきらぼうに命令してくるなぁ。ローブで顔見えないし。でっかい杖持ってるし。魔法使いのコスプレか?

 

「おま……!」

 

 口を開くとほぼ同時に、燃え盛る火の玉が足元目掛けて飛んできた。その速度は優に150km/hを超えていたと思う。バッティングセンターで打ったことあるんよ。

 

「口を開くな。早く来い。」

 

 ご命令通り、口を開くことなく、先を歩くローブ男について行く。今気がついたけど、この人足音してないな。

 

「これより先、我らが魔族を統べる御仁のおわす部屋。お前は言われた事だけをしろ。」

 

 こくこくこくと頭が取れる勢いで頷く。魔族?魔族って言った?頭おかしい人達なの?それとも日本じゃない?日本じゃないどころか地球でもない?え、怖いよぉ……。

 

 豪奢な扉が無音で開く。え、自動ドアなの?誰も触ってないのになんで開くの?

 

「でっ……!!」

 

 慌てて両手で口を抑える。ローブの男が振り返って俺を睨みつけている。だってしょうがないじゃん。扉を開いたら、まるで超一流ホテルのような空間。奥にいるのは超でっかいドラゴン。

 

「お前が此度召喚された勇者か……。」

 

 ドラゴンが言った。何でか分からないけど、ドラゴンが発した言葉だというのが理解出来た。

 

「召喚陣の上におりましたので、間違いないかと。ステータス的にも極めて脆弱な人間でありますが。」

 

「この世全てがステータスで計れるなら苦労しないわ……。ふん……。そこな人間、芸人と言うのは何をする者なのだ。」

 

 ドラゴンから発せられた芸人というワード。なんで知ってるの?

 

「さっさと答えろ。」

 

 ビビりまくって声が出ない俺の顔を、ローブの男が杖でグリグリしてくる。痛い痛い。止めてって。

 

「げ、芸人と言うのは……、色々芸をやることで生計を立てている人の総称です!」

 

「お前は何が出来る。」

 

 何にもできないよぉ……。

 

「人を笑わせる事が出来ますぅ……。」

 

「それで生きていくことが出来るとは、ずいぶん恵まれた国だな。まぁいい、せっかくだ、やってもらおうか。」

 

 へ?

 

「おぉ、素晴らしいですな。ちょうど夕餉の時間ですし、食堂のステージがちょうどいいかと。」

 

 へ?

 

「というわけだ。頼むぞ。」

 

 へ?

 

「さぁ、さっさとついてきなさい。」

 

 へ?

 

 へ?

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

「本日の余興はぁ!異世界からの勇者による爆笑必至の芸だぁ!異世界を笑いで支配してきたというこの男!その芸は我々にも通用するのか!?食べ物を口に含んでいるそこの貴方!気をつけろよー?全部吹き出しちまうかもしれないからな!さぁ!それでは!異世界からの勇者!まさやんの登場だぁ!!」

 


―終わり―

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お笑いで異世界を統べる男になれるのか!? 閑人 @chidome

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