発現

 「うーん、黄色かぁ…別に今ワタシ怒ってないし、それ以外の感情ってことになるよなぁ…何だろ、何処どこから調べようか…」ひたいに指を当てて考え込む韋駄天。


 「何か自分に変化は感じますか」


 「うん、さっきから水動け!風吹け!とか念じてるんだけど、何も起きないね……そうだなぁ…」


 突然真白の方を振り返った韋駄天は、「…ちょっとこっち来て真白!」急に真白の手を引くと路地裏に駆け込んだ。そしていきなりかがんだかと思うと次の瞬間…彼女が真白の目の前から消えた。


 真白は周りを見回した、しかしどこにも韋駄天の姿はない。すると突然、なんと空から韋駄天が降ってきた。


 「あらよっと!ははーん成程ね、脚力か…真白、どうやらワタシの場合は脚力が強化されるみたいだよ!何かさっきから、妙に脚に力がみなぎってる気がしてたんだよねー。」納得の笑みを浮かべ、韋駄天は言う。


 「脚力ですか」


 「ふむふむ、少しずつ分かってきたよ…やっぱり赤以外にも目の色の変化のバリエーションはあって、起こる現象も自然物質への干渉だけではない。そしてそれらの原因、というか原動力は…感情だ。」


 「感情…」起伏の少ない表情で真白が呟く。


 「そう。今ワタシは新たな研究対象の出現によって気分が高揚した、つまり「喜び」を感じたんだ。そしてその感情がワタシに変化を及ぼし、目の虹彩が黄色くなって脚力が強化された、という訳。」彼女は得意げに鼻を鳴らす。


 「まぁ、まだ分からない事の方が多いよ。回数制限や対価のように何らかの制約はあるのか、何故ワタシはこの力を使うことが出来たのか、先天的なモノなのか後天的なモノなのか…カフェの彼女や多数の投稿から考えて、少なくとも三人以上はこの力に目覚めた者が存在するってことだし…調べることは山程あるや!」目をキラキラさせながら真白に詰め寄る韋駄天。


 「……」


 「あぁゴメンゴメン、ちょっと興奮し過ぎちゃったね。まぁともかく、これはワタシたちの目標にとって大きな一歩かもしれないよ!記憶の方はさておき、キミの共感性の問題、その解決の糸口にはなりそうだ!」




 それから少し時間が経ち、二人は月明かりの帰路を歩いていた。


 「…名称って重要だと思うんだワタシ。」突然口を開いた韋駄天。


 「…名称とは」


 「この現象の名前だよ!って今も現象だなんて回りくどい表現になってるし!ひとまずワタシと真白の間で通じるだけでもいいからさ、決めちゃおうよ!」


 「……」


 「よし、じゃあ早速考えよう!というか実はもう考えてあるんだ!」


 「……」話についていけなくなり、沈黙を決め込む真白を置き去りに、韋駄天は話を進める。


 「まずこの不思議な力、感情をみなもととしているから情の力で「情力じょうりょく」、そして情力が機能することを「発現」と呼ぼう!は違う意味になっちゃうからね!そして情力を有する者を、情をそなえる者「具情者ぐじょうしゃ」としよう!どう?」


 「……」


 「よし決定!ほんじゃあ、具情者たるワタシはこの辺でおいとまさせてもらうとしようかな!それじゃあまた明日ね真白!」


 そう言い残すと、韋駄天はあっという間に「情力」を「発現」させて跳躍ちょうやくし、颯爽さっそうと壁を伝って夜の空へと消えていった。

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