正体不明

 韋駄天と金子きんしは互いに傷を負い、血を流しながら戦っていた。状況としてはあらゆる金属を操作出来る金子の方が少し有利で、加えて長引いた戦いにより、またもや韋駄天の弱点が露呈し始めていた。


 「どうやら心身ともにみたいね…鉄の操作に関しちゃなかなかいい線いってたけど、所詮しょせん全ての金属を従える私の敵じゃないってこと!知ってる?金って錆びないのよ…!」息を乱す韋駄天を前に、金子はレイピアを構え直す。両者の情力により、周囲には形を無理矢理変えられた金属が散らばっており、戦場はまるで現代アート作品のような様相を醸し出している。


「さて、憂さ晴らしも十分したことだし…そろそろ終わりにするわ!」その様子をじっと見つめている韋駄天、その口がかすかに動いている…


 「…出来るかな?出来るよね?だって真白が出来てるんだもん…「喜び」も「楽しみ」もワタシの感情…ワタシのチカラ………」独り言のようにそう呟く韋駄天。


 「何をぼそぼそ呟いてるの?今更何をしたって…えっ!?」


 顔を上げた韋駄天、その双眸そうぼうは…オッドアイと化していた。


 「あんた、それ…!?」予想外の出来事に面食らう金子、韋駄天自身もまたその変化に多少驚きはしたが、「おぉ!やっぱり出来たね情力同時使用!言うなれば、そうだな…「混情こんじょう」…ってとこかな!」韋駄天が両手を広げる、すると彼女を中心に、まるで蜘蛛の巣のように糸状の鉄が四方八方に延び、二人を鉄の網に閉じ込める。


 「何を…!?」戸惑う金子。「悪いけどこの勝負…ワタシの勝ちだよ!!」韋駄天は強化されている脚力でその鉄の網へ飛び移り、そしてその瞬間、鉄はゴムの様にぐにゃりと曲がり、そして形状記憶合金のように弾性を発揮し、元の形に戻ろうとした。その反動を利用して韋駄天は、凄まじい速さで金子に向かい、突進を繰り出した。


 避けられる筈もなく、金子はその攻撃をもろに喰らって後ろに吹っ飛ばされた。しかしその後ろにも鉄網は張り巡らされている…


 「ぐ…っはぁ!!」金子は突進、そして背後の鉄網にぶつかった衝撃で吐血し、身体を折り曲げて苦しむ。「こんな…バカなことが…!」うめく金子に近づく韋駄天。「ごめん、加減し損ねた!!大丈夫?」「…お前まで…私をさげすむなぁぁ!!」心配を侮辱と受け取った金子は、怒りに任せてレイピアを振るおうとする。しかし彼女は「喜び」の具情者、その彼女がを覚えたということは…


 「!しまった、情力が…!」金子の目は元の色に戻り、力が抜けて思わず倒れ込む。「わわ、重傷じゃないか!ごめんね、ホントやりすぎた!待ってて、今すぐ手当を…!」韋駄天は持っていた小型医療キットを取り出し、応急手当てを試みようとした…


 その時だった。



 「オヤオヤ、ダイジョウブデスカキンシサン?」知らない声がその場に響き渡る。「え…誰?」辺りを見回す韋駄天。「ココ、ココデスヨ。」声の主は…に居た。


 「!?」韋駄天はすぐ後ろに跳び、鉄の警棒を形成して構え直す。(ウソ…ウソウソウソ!!ありえないでしょ、全然気配しなかったよ!?)韋駄天は目の前の女に対し総毛立つ。


 「マァマァ、ソンナニオビエナイデクレタマヘ、キデンガナニモシナイナラ、オノレモナニモシナイカラクカカカカ!」独特な話し方をするその少女…中性的な容姿に肩くらいまで無造作に切られた銀髪、片目が髪の毛で隠れていたが、もう片方の目は緑色に輝いていた、つまりは…「楽しみ」の具情者だ。


 「オット、ジコショウカイガオクレタネ。オノレノヨビナハ、サイタヅマリョウコデアル、イゴヨシナニ!!」

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