カタコトグジョウシャ

 「え…あ、これはどうもご丁寧に、ワタシ黄喜きき韋駄天いだてんです…」ついつい相手のペースに乗せられ、互いに自己紹介を済ませる二人。


 「レイギタダシイコダネ、イイコイイコ。」サイタヅマリョウコ…もとい左伊多津万量子はにっこりと笑い、韋駄天を見た。「コノテツアミ…トイテモラッテモイイカナ?」


 「え?あ、ちょっと待ってね…おおっと!」混情を初めて使った反動で、韋駄天は疲労でよろけ、片膝をついてしまう。その時点で韋駄天の情力は解け、支配下になくなった鉄網がその形状のまま残ってしまっていた。「ご、ごめんね〜、ちょっと休憩したらすぐに…」


 「イヤ、ダイジョウブ。キデンモスコシヤスンデイルトイイ…ジョウリョクハツゲン「量子リョウシ最連サイレン」」


 韋駄天の視界は正常に機能していた…しかし彼女は、目の前で一体何が起きたのか理解出来なかった。のだ。


 「ホラ、コレハキミノブキダロウ?オカエシスルヨ。ア、スコシザイシツをチョウセイシテオイタカラ、ヨリツカイヤスクナッテイルハズダヨ!キデンハイイコダカラゴホウビダ!」そう言って量子は鉄球を韋駄天に放って寄越した。鉄球を受け取った韋駄天は、まだ疲労の残る頭を無理矢理フル回転させる。


 (軽い…鉄の質がよりしなやかに、それでいてより強くなっている…こんなの、から組み替えないと出来ない芸当だぞ…!?これはホントにヤバい…この人は……明らかに別格だ!!)普段は自分の理解を超えたものに遭遇すると喜びを露わにする韋駄天だったが、この時ばかりは明確な別の感情を抱いていた…「恐怖」だ。


 (そもそも鉄網てつあみは侵入の余地がなかった、網目が細かくて人が入り込むことは出来なかったから…それをこの人は容易たやすく侵入した…ワタシに悟られず、鉄網を破壊することなく!……全く謎の情力…今のワタシじゃ…いや、万全の状態でも多分このヒトには勝てない…血染や真白でも敵わないんじゃないか…!?)


 まるで蛇に睨まれた蛙の様に、身動き一つ取れなくなってしまった韋駄天…そんな彼女をよそに、金子が量子に声を掛ける。


 「な…何しに来たのよ量子…まさか、戦いに敗れた私を消しに…?」一応は仲間である金子でさえ、量子に一定の警戒心を抱いている。その様子を見て、韋駄天の量子への恐れが確信へと変わった。


 「ハハハ、マンガノヨミスギダヨキンシサン!オノレトキデンハナカマダロウ?ナノニナゼ、ソノナカマデアルキデンヲサクジョスルヒツヨウガアル?ホントウニオモシロイコトヲイウナァクカカカカ!」ツボに入ったらしく、一人爆笑する量子。




 「ア、ノナラハナシハベツダケド…ヒョットシテオノレノテキニナッタ?」




 急に笑うのをやめ、真顔で金子をじっと凝視する量子。「あ…いやいや、まだあなたの仲間よ、というかあなたの敵になることは多分ないから…」引きった笑みを浮かべ、金子は量子に言う。「ナラヨカッタ!オノレヲオビヤカスモノハシテシマワナイト、コワクテオチオチヨルモネテイラレナイカラネ!」またしても張り付いたような笑みを浮かべ、金子に言葉を投げ掛ける。


 「アァソウソウ、ココニキタノハキンキョウホウコクヲスルタメダッタ!」片手をポン、と手のひらに当て、二人に告げた。「コノタタカイ…エモートゥスノマケダヨ…ソシテエモートゥスハカイメツシタ。」呆気にとられる韋駄天と金子だったが、感覚を研ぎ澄ましてみると成る程、周囲からは戦いの情念をほとんど感じない。そして…


 「…水面さんの情念を…感じない…」唖然とした様子で金子が呟く。「アァ、ミナモサンハドウヤラ、イダテンチャンノナカマニヨッテヤラレテシマッタヨウダ…マァカノジョノオノレタチヲミルメハ、ナカマニタイシテトイウヨリハ「ゲェムノコマニタイシテ」ガチカカッタカラ、カタキウチヲシヨウナンテキハオコラナイケドネ。」肩をすくめる量子、言葉に敵意や戦意が宿っていないのを感じ取り、韋駄天はひとまずほっと胸を撫で下ろす。


 「…ちょっと待って、水面は…ってことは、まだあなた達の…」「アァ、リーダーノヒカリサンはマダイキテイル…フム、サキホドノハツゲンニハゴヘイガアッタネ…エモートゥスヲジッシツシハイシテイタノハミナモサンダッタカラ、ソシキノキノウハウシナワレタ。デモ、エモートゥスハマダノコッテイル…」量子はそう言って光がいる方向に目をやった、韋駄天と金子もつられてそちらを見る。


 (真白……死なないでよ……!)元の色に戻った目を少し潤ませながら、韋駄天は親友の無事を祈った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る