嵐影湖光

 色橋市はその周囲を山々に囲まれた、いわゆる盆地に分類される土地だ。その色橋市の北に位置する色橋湖だが、普段は静かな湖、そして奥に広がる山々の荘厳さにより、観光スポットとしてとても人気の高い場所である。


 …しかし今は、荒れ狂った激しい情念の渦巻く危険極まりない戦場と化していた。


 「滝落とし!」情力で宙に浮かぶ水面の声と共に、おびただしい量の水が赤、風音、雷に降り注ぐ。「旋風つむじかぜ!」「雷閃らいせん!」風音はその水を竜巻で防ぎ、雷は電光石火の速さで安全な場所へと移動する。赤もその情力「水天すいてん髣髴ほうふつ」により水を退しりぞけた…しかし水面は息をつかせる暇も与えず、続けて大質量の水を叩きつける。


 (あいつ…化け物か…!?)赤は身を守りながらも、規格外の強さを惜しみなく発揮している水面に人知れずおののく。(あんな大技を出しながらもおれへの警戒は一切いっさいおこたらず、あまつさえ隙あらば別の技を仕掛けようとしてくるなんて…!)まさに八面はちめん六臂ろっぴの大暴れ、エモートゥス第二位としての格をまざまざと見せつけている水面。


 「どーする風音?今んとこ防戦一方だよ!」「分かってる!何とか突破口を見つけ出さないと…」険しい顔で攻撃を受け流す風音、そして…


 「…よし、これでいこう!雷、あたしが何とかあいつの隙を生み出す、だからあんたは「迅雷」の超スピードであいつに近づいて、電撃きついの一発ぶちかましてやれ!」それを聞いた雷はウインクで風音に返事をした。「かしこまりっ!!」


 (…どうやら何か仕掛けてくるようだな…)下方の様子を鋭い目で見ていた水面は少し身構え、そして新たに術を放つ。「貴様らの血で世をいろどれ…桜雨さくらあめ。」するとそれまで滝のようにうねり返っていた水が静まり、細かい水滴となってふわふわと宙に浮かび始め、そして…三人を追尾し始めた。


 「ちっ!」赤は激しい渦を生み出してその水滴を弾き返した。風音は手にしていた武器の旗を振り回して水滴を散らし、雷は周囲に雷撃を飛ばして水滴を蒸発させる。しかしその水滴は無数にあるばかりでなく、破壊してもすぐに再生成されてゆき、そして再び彼女たちに襲い掛かる。


 「痛っ!」その水滴は、まるで手裏剣のようにが雷をかすめ、彼女の腕から血が飛び散る。「雷!うわっ!!」風音も水滴に追いつかれ、怪我を負ってしまう。


「「桜雨」はいわば水刃すいじん花弁かべん、無数の水滴が貴様らの皮を引き裂き、その血を吸って赤く染まった時こそ真に技は完成する…風に散りゆく赤きしずく…故に「桜雨」という訳さ…」その水滴は優雅に、しかし無慈悲に彼女達の四肢を切り裂いていく。


 「ああもう鬱陶しい!「花散らし」!!」痺れを切らした風音が旗をぶんぶんと回す、すると彼女を中心に強風が吹き荒れ、水滴が形を維持出来なくなる。「はぁぁぁ!!!」彼女はそのまま旗のきっさきを水面へと向ける、するとその鋒を中心として、水面目掛けて竜巻がとぐろを巻き始める。


 「雷、今だ!!」風音の合図を受け、雷の身体から稲妻がほとばしる。「雷鳥らいちょう!!」鳥を象った雷を纏い、雷の翼を旗めかせながら目にも止まらぬはやさで風音が立つ場所へ移動し、そしてそこから竜巻の中を通り、水面に突進を繰り出した。


 …だが…雷は水面には届かなかった。


 「ふむ、悪くない連携だった。だがその程度では…多少驚くに留まる。」雷は粘着性のある水の塊に絡め取られ、身動きが取れなくなっていた。

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