第八章:輝劇第四幕編

後半戦

 「…来たか、愚か者共…」其処そこは色橋の北側に位置する大きな湖「色橋湖」だ。絵画の様に静謐せいひつな湖畔に、水面みなもたたずんでいた。


 「随分と世話になったものだ…おかげで長年の計画、その大半が水泡に帰してしまったよ…」湖から三人へと視線を移す水面、その目は血のように濃い赤色だった。


 「具情者とはいえ、たかが小娘の集まりに邪魔された程度で頓挫とんざする計画…わたし達が何かせずとも、いずれポシャってたと思うけど?」意地の悪い笑みを浮かべ、風音がロングブレスで嫌味を言う。


 「…かもしれないな…次の計画の参考にさせてもらうとしよう……さて、組織を束ねる責任者としての発言はこのくらいでいいだろう…」水面から大気が震えるような殺意が発せられる。「ここからは貴様らとさして歳の変わらぬ、一人の小娘として対峙させてもらう…」


 ただでさえ強大な水面の発する情念が一入ひとしお重くなる…まるで気圧が変わったかのように、三人は体が重くなるのを感じた。


 「をさせてもらおうか…私をわずらわせたこと、思う存分後悔させてやる!!」


  湖から大量の水が噴水のように立ち昇り、水面の周囲に集まってくる。「情力発現「傾盆けいぼん大雨たいう」!!」


 赤がドン!と地面を両手で叩く、すると水流が複数本現れ、四人を中心とした半径2km程を囲むようにして円環状に循環し始めた。「…ふん、やはり水を操作する具情者がいたか…即死は免れたようで何よりだよ…」水面は以前美波達に対して使った、体内の水を操作し人体を内側から破裂させる技「逆雨さかあめ」を発動させようとしたが、赤がすかさず発動させた結界によりそれは阻止された。


 「風音、雷!さっき言った通りだ、気を付けろよ!!」二人はその声に頷き、武器を構える。三体一、強大な具情者同士の戦いが幕を開けた。




 その頃。


 「真白、渡した武器上手く使いこなせてるかなぁ…」韋駄天はそんなことを呟きながら瓦礫道を歩いていた。すると、彼女の目の前に誰かが倒れている。


 「え、嘘!?ちょ、大丈夫ですか!?」急いで駆け寄る韋駄天、しかしその者は…血染が倒した具情者、裏葉うらは金子きんしその者であった。「……」韋駄天に介抱され、血染に浴びせられた電撃のしびれが取れた金子…すると彼女はすぐさま韋駄天から離れ、情力を発現させて戦いの構えを取った。「お前…あの血を使う黒髪の女の仲間か!!」


 「血を使う黒髪…血染のこと?だったらそうだけど…なんだなんだ!?」そう応じつつ、韋駄天は金子の豹変に戸惑いつつも、武器の流体金属を脚に纏わせて目を黄色にしている。


 「あいつ、許さない…この私をコケにして!!まぁいいわ、あんたがあいつの仲間だってんなら…介抱してもらって悪いけど、あんたをなぶって憂さ晴らしをさせてもらうから!!」金子は情力で流体化させた周囲の金属をその手に集め、形状をレイピアへと押し固めた。そしてそのきっさきを韋駄天に向け、突進を繰り出して来る。


 「うわっとぉ!!」韋駄天はその刺突を避け、カウンターで蹴りを入れる。すると金子はレイピアとは逆の手に金属を集約させ、小振りの盾を形成した。金属と金属がぶつかり合い、ガキンと嫌な音が立つ。(これは…こっちの情力の方が都合いいか?)韋駄天は後ろに跳んで距離を取り、彼女の目の色が黄色から緑に変わる。


 「情力発現「鉄中てっちゅう錚錚そうそう」!」脚の装甲が形を変え二本の警棒になった…彼女はそれらを使って、金子に二刀流の猛攻を繰り出す。「!?お前か、椎奈が言ってた情力二つ持ちは!」韋駄天の攻撃を防ぎながら金子が目を見開く。今や荒涼こうりょうたる光景となり果てた色橋の通りに、鋭い金属音が大きく鳴り響く。

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