波動

 轟々ごうごうと燃える炎…そんな状況を前に、花は警戒体制を少しも緩めずにいた…が、果たしてそんな彼女の用心は正しかった。炎の中から突如、視認出来ない何かが飛んでくるのを花は察知し、横に飛んでそれを回避する。



 「衝撃波ソニックブーム…私よく避けれたわね…」冷や汗をたらりと流し、花は正面から美波と向き直った。


 「あービックリした、お花が急に燃えるんだもの…、だっけ?可燃性の成分、勉強になったよ。」そう言いつつ、美波の身体には火傷一つない。


 「…じゃあ教えてよ、どうやってさっきの炎を防いだの?」ポケットに手を突っ込み、次に放つ植物の種子を手探りしながら花が問い掛ける。


 「…ここにあるよ。」そう言って美波は片方の手を掲げて見せる、すると不規則に揺らぐ炎が球状に彼女の手の上に浮かんでいた。


 「それは…何なの…!?」戸惑う花に向け、美波はその手を向ける。


 「。」質問に答える代わりに美波は手を差し向け、その炎の球が爆発し、高温の波動が花を容赦なく襲う。あまりの速さに今度ばかりはその攻撃を避けられず、花は燃えながら後ろに吹っ飛ばされてしまう。


 「あなたの放った炎を熱波に変換して球状に留め、それをあなたに向けて放った…ただそれだけ…ごめん、自分でもあんまよく分かってないけど、まあとにかくそゆこと。証拠に炎の強さ、弱強が交互に来たでしょ?波ってそういう性質なの。」メラメラと燃えている花を前に、美波は眉ひとつ動かさずにそう説明した。


 「…火傷にはアロエよね…」そう呟いた花、その足元から巨大なアロエがズゴゴ、と音を立てて生えてきた。


 「あ、その植物は分かるよアロエだよね!」表情が一転、子供のようにはしゃぎながら指差す美波。生えてきた数本のアロエが裂け、その中からゼリー状の果肉が出て来た。そのゼリーが当たり、「シュー」という音と共に消えてゆく炎…鎮火したものの、その顔は火傷によりすっかり変わり果てていた。


 花はゆっくりと立ち上がり、そしてうなるように呟く。「やれやれ、やってくれるわほんと…さて気付いてるかしら…あなた今…?」


 「毒?そんなものいつ…!?」美波は急に視界がぐるりと回り、思わず膝をついた。「なんだ…これ…?」心臓が高鳴り、目がチカチカする、それに気分がすこぶる悪い…美波は突然の不調により立ち上がることが出来ず、脂汗が体中から噴き出していた。


 「あなたの周りに咲いてる植物の名を教えてあげるわ…「ハシリドコロ」よ。」焦げついた腕をさすりながら花は答える。火傷を負って尚平然と動き話しているところを鑑みるに、彼女は何か麻酔系の植物を使い、痛覚を鈍くしているようだ。


 「ハシリドコロっていうのはアルカロイド類のトロパンアルカロイドを毒成分とする有毒植物でね、吐き気、瞳孔拡大、眩暈めまい、そして幻覚などの症状を引き起こすのよ。」まるで医師のようにハシリドコロの効能を述べる花。


 「私の情力は知識を要するものでね…まぁ、元々薬学を学んでいたのもあって、特に力の扱いに苦労はしなかったけど…もしあなたに植物の知識があったら、ハシリドコロが目に入った時点で遠くに逃げれてたかもね。」少し意地の悪そうな笑みを浮かべ、皮肉を口にする。


 「……あなた、分身まで使えたの…?」頭を押さえながら美波が尋ねる、どうやら幻覚作用が始まったようだ。「あ、これ毒の影響か…いてて…」美波はおもむろに自分の手を胸に当てて…


 「…電磁波。」そう呟いた瞬間、衝撃を受けたように彼女の身体がビクンと震えた。


 「…よし、…」そう言って美波は立ち上がった。


 「え…ちょっと待って、嘘でしょ…何で平然と立てるの…!?」どうやら美波の情力、その応用性は花の想像を超えていたようで、唖然とする他ない花。そんな彼女に美波は人差し指を向け…


 「電磁波。」


 ジジ…と音を立て、雷撃が花の胸に直撃した。

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