花言葉は…

 色橋市には、八重が浮かした電波塔の他にもう一つ高い塔がある。その名は「いろいろどりのとう」それは前述の塔とは対照的で、何百年も前に建立こんりゅうされた歴史ある木造の建物だ。そんな塔のいただきに、佇む人影が一つ。


 「…あちこちで波が起きてるわね…混沌…いや、逆に調和してるか…?」何やらぶつぶつと呟く彼女に、誰かが近づいて来る。


 「情報通りね、本当にいた…」呟きを止めたその女が振り向くと、そこにはブラウエ・トロメルの一人、若草わかくさはなが立っていた。「あなた達…エラいことしでかしてくれたわね。」花がその女を静かに睨みつける、実のところ今回の事件で、花はエモートゥスに対してかなりのいきどおりを感じていた。ただ彼女は感情をコントロールする術を完璧に身につけており、情力の強度に支障はない。


 「…」しばらく花を見つめていたその子は、やがて目を逸らして再び眼下に広がる色橋市を眺める。


 「…情力発現「木花もっか草々そうそう」」花が懐から出した種を地面に撒く、するとそこから植物が急成長を始め、つたつるが彼女に絡み付こうとする。しかし…


 「情力発現「波流はりゅう弟靡たいび」」彼女は花を見ることすらなく、不可視の力でその植物を一瞬で蹴散らした。


 「…今発生させたのは「衝撃波」ね。」そう言われた女は再び花の方に視線を向ける。「…知ってるの?」「まぁね。あなたは「波」を操作する具情者、その操作対象は「電波」「音波」「衝撃波」エトセトラ…波であるなら何にでも干渉出来る…恐ろしい情力だわ、でも…」花が危険な笑みを浮かべる。「…私にとっては好都合、あぁ、実験し甲斐がいがあるわぁ〜!!」緑の目を楽しげに輝かせる花に対し、彼女は言った。「…あ、名乗ってなかったっけ?私の名前は青柳あおなぎ美波みなみだよ。」


 「ふーん、美波、ね、一応覚えとくわ。というかこのタイミングで自己紹介?随分とまぁ、エキセントリックな子ね。」若干呆れ気味の笑みを浮かべてそう言いつつも、新たな種を周囲に振り撒く花、そんな彼女に美波が言い放つ。


 「…一応忠告しておくけど、私結構強いよ?あと容赦とか一切しないよ?」「だから?」今度は剣呑けんのんな笑みを浮かべ、口端を歪める花。「無傷で逃げるなら今のうちだよ…って言いたかったんだけど…えーと、やるのね?」花は言葉の代わりに再び植物を差し向けた。対する美波は先程と同様、衝撃波を発生させてその植物を破壊しようとするが…


 「やめといた方がいいわよ。」花がそう言うのとほぼ同時に、美波は情力を放ってしまった…するとその植物が突然燃え出し、美波に火の手が襲い掛かる。「今あなたに差し向けた植物はユーカリとゴジアオイっていってね、ユーカリの葉はテルペンっていう引火性の高い物質を分泌するの。そしてゴジアオイもまた揮発性きはつせいの高い油を生成する植物…その油は三十度から五十度の気温で自然発火するといわれている。つまり…衝撃波による空気摩擦で温度は急激に上昇し…ボン!!…という訳。」腰に手を当て、もう一方の手をパッと開く花、その目には…明らかな敵意が宿っていた。

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