水火の交わり

 「…みんな大丈夫かなぁ…」そう呟きながら、焔は荒れ果てた道を見回し歩いていた。すると…


 「…どうやら、あんたがうちの相手してくれるみたいやなぁ。」焔は自身の目の前に立ちはだかる少女を見て不敵に笑む。


 「…はい。」大和撫子、という比喩がぴったりな、まるで白磁のように白い肌、漆の如く黒い長髪の少女が、鈴を転がしたように可憐な声で反応した。見た目にたがわないその上品で落ち着いた有り様は、戦場にはあまりにも不似合いである。


 「………」


 「…え?」ラジオなら放送事故レベルの沈黙…そのせいで、超バトルモードで声を掛けた焔の表情は一変、あまつさえ気恥ずかしげに頬を染めてしまっている。


 「…あ、あぁ、あんま喋らん子なんやな……ほんじゃあ、ええっと……始めよか…」腰の長棒を火花を撒き散らしながら取り出す、困った様子の焔。


 「……」黒髪の子はその様子を見て、静かにその目を赤く光らせる。「情力発現「一水いっすい四見しけん」…」すると、辺りが突然霧に包まれ、視界が白くぼやける。


 「お、いきなりきたな…」例によって瞳から情報を得ている焔は、気を引き締め直して警戒を強める。「こうして出会ったんも何かの縁や…名前、聞いてもええか?」


 「あの…」深まりかけていた霧が急に晴れ、黒髪の子が焔に声を掛けた。


 「うぇ!?あ、ごめん、どしたん?」虚を突かれて変な声が出てしまう焔、そんな彼女にその子は、恐る恐る言葉を発する。




 「……戦うの…やめにしませんか…?」




 焔は目を丸くして聞き返した。「…はい?」その反応を見た彼女は、「怒り」の具情者にも関わらず、少し哀しげな様子で話し始める。


 「本当は最初から嫌だったんですけど、中々言い出せなくて…気付いたらもう収集のつかないことになってしまっていて……私、水墨画が好きなんです。」


 「え……おう…?」急に自分語りを始めだした彼女に、コミュ力が比較的高い方の焔がしどろもどろな相槌あいづちになる。


 「この色橋市には歴史的な建物が多くあり、それに自然の情景も美しい…人口と自然が見事に調和した素晴らしい場所だった…でもそれらは…私達エモートゥスによって無残にも破壊されてしまった…」暗い表情でそう言った彼女、焔はその顔を見て、彼女がそのしのぎの嘘をついている訳ではないと感じた。


 「…後悔してるんか?」焔の言葉に、その子はこくりと頷く。「…ほなったら今からでも遅くない!この街を守るために、うちらと一緒に動こうや!」微笑みながらそう提案する焔。その子は次の言葉が見つからず、少し逡巡しゅんじゅんする様子をみせる。


 「……エモートゥスは強大です……勝算は…彼女達を止める策はお有りなのですか…?」そう尋ねた彼女に、焔は腕組みをして答える。「希望ならあるで!こっちにも半端やない具情者が何人かおってやな…ただまぁ、絶対に勝てるかどうかは分からん。あんたの方がよう分かってるかと思うけど、そちらさんの具情者も中々の粒が揃ってるみたいやしなぁ。」焔は自分なりに見出だしたありのままの現状を彼女に伝える。それを聞き、しばらく考え込んだ様子を見せた彼女だったが……


 「今からでも…少しでも償いが出来るのならば………その希望、私も信じてみることにします!」そう言うと彼女は完全に情力を止め、焔も火を消した。


 「よし!そうと決まれば早速行動に移そ!あんたら数百人規模の具情者野にはなってんのやろ?放っとく訳にはいかんし、うちらはそいつら止めに行くとしようや!」息まく焔に彼女が言う。


 「薄桜はくおう垂水たるみ」「えっ?」聞き返す焔に、彼女は初めて笑顔を見せた。


 「私の名前…薄桜垂水です…よろしく…!」はにかむ彼女に、焔は不覚にもドキッとときめいてしまった。


 「お…おう!よろしくな、垂水!」

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