第二章:暴情襲撃編

激動

 「血染さん!!」


 真白は色橋駅の展望台でぼんやりと空を眺めていた血染に声を掛ける。


 「真白?…よくここが分かったねぇ。」血染は少し意外そうな表情を浮かべて真白に応じた。


 「だって血染さん、駅に着いた時にこの展望台を何度か見てましたし…あとで行こうとしてるのかなぁ、って思ったんです。」


 「ふふ…気付かれちまってたか…にしても、なんであたしなんかに?」首をかしげる血染に、


 「血染さんとはその…そんなに話せてないなー…なんて思ったりして…」気恥ずかしそうにもじもじする真白。そんな彼女を見て、血染は思わず吹き出した。


 「ぷっ…あははは…あんたはほんとにそっくりだねぇ、思わず笑っちまったよ。」


 「え…あの子?」


 「あぁいや…ただの独り言さ、忘れとくれ…」少し切なそうに笑みを見せた血染…不思議そうに首を傾げる真白に「…そうだね、じゃあ少し話そうか…」彼女は話し始めた。


 二人は手すりにもたれ掛かり、空を眺める。「…変わらないねぇ、あの天井あおいろだけは…」不意に血染が声を発する。「目まぐるしく変わる地上こっちとは大違いだよ…」「……」らしくない様子の血染に少し困惑する真白。


 「…ねぇ真白…あんた、これからどうするんだい?」突如、そんな彼女から問いを投げ掛けられる。


 「…え…これからですか…?き、今日はディナーショーまで、色橋をぶらぶらしようかと…」


 「違う違う。」血染が手をひらひらと振り、いつになく真剣な眼差しで真白を見据える。「感情と記憶を取り戻したあんたは…これからどう生きていこうとしてるんだい?」


 「え…これから………」


 「…質問を変えようか。真白、あんたはこれから何をしたい?残酷な程悠長で広大なこの世界で、あんたは自分の人生を…一体何に費やしたい?」


 「わたしの…人生……」


 真白は少し考え込み、やがて口を開こうとした…その瞬間…


 「「!!」」


 二人はあちこちから強い情念を感じた…以前に緑の仲間、そうが激情態となったときと同程度の情念だ。


 「血染さん、これは…!?」


 「どういうことだ…!?これほど多数の方面から、強い情念を感じるなんて…真白、ひとまず一番近いところに行くよ!」


 「はい!」


 二人は情力を発現させ、展望台を飛び降りた。




 着物屋の前。


 「韋駄天ちゃん!これについて何か分かる?」既に情力を発現させている糸が焦った様子で韋駄天に問い掛ける…彼女達は皆、試着の着物を身に纏ったままだ。糸が繊維化した着物で動きを封じているのは…だった。


 「ゴメン、まだ何も分かんない!でも今AIに調べさせてるから、もう少し時間もらえたら何かしら答え出ると思う!…少なくとも路情ではないよね?周りの人達にも見えてるみたいだし…」韋駄天の言う通り、路情は具情者にしか見えない…しかし道行く人々からは驚愕と恐怖の表情が見て取れた、つまりは…姿ということだ。それもそのはず………



 



 「晶ちゃん、大丈夫!?」


 「問題ありません、私のことはお構いなく!それより街の皆さんへの被害は…」動きにくい着物にも関わらず、軽やかな身のこなしで攻撃を回避している晶…彼女は家庭の事情から闇討ちの技術に秀でており、今はその歩法を駆使して相手を傷つけることなく、のらりくらりとその場をやり過ごしている。


 「大丈夫!糸ちゃんが情力で全部抑えてくれてるよ!」自らも加減した蹴りによって暴徒を遠ざけつつ、韋駄天は晶の質問に答える。


 「良かった…!しかし、これは一体…!?」晶は情力を発現させ、高い所に跳躍して辺りを見回す。彼女の情力名は「遠近えんきん無用むよう」、視力の調節を可能にする力で、最大で1km先までを明瞭に視認することが出来る。


 「そんな…あちこちで具情者が暴れてる…!!」視界の先で起きている出来事に、晶は思わず唖然とする。「…ともかく、他の皆さんとも連絡を取らないと!!」彼女はふところからスマートフォンを取り出し、画面をタップした。

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