暴情

 料亭近くの街路にて。


 「!みんな、晶から連絡来た!…どうもあちこちでおんなじことが起きてるみたい…」スマホを見た風音が情報を共有する。


 「やっぱりか…他の感情共も突然現れた具情者と応戦してるみてぇだし…ったく、どうなってやがんだよ!!」歯軋はぎしりする赤、その周りには、彼女の情力による水の縄で動きを止められている暴徒達がいる。


 狂ったように笑い声を上げる者、怒りに歪んだ表情を浮かべる者、涙を流し慟哭する者、享楽に溺れ、目の焦点が定まらない者……理性なき剥き出しの感情が、そこかしこに蔓延はびこっていた。


 「マジなんなんこいつら?叫び声か呻き声だけで言葉になってないし、観光でテンション上がってるにしちゃあ、ちょっとキマりすぎでしょ!」雷は情力で周りの暴徒を一網打尽にしびれさせ、強制的に動けなくさせていた。


 「しかもただの情力やない…感じる情念、情力の強度…これはまるで…激情態や…!」一度激情態になった者と対面している彼女の脳内には、その時の記憶がまざまざとフラッシュバックしていた。つい先程まで楽しげな声で賑わっていた街には、今や怒号と悲鳴が激しく飛び交っている。


 「んで、こいつらどーすんの?全員片っ端からぶん殴ってったらいい?」面倒くさそうな顔でさらりと言うかいな


 「ええ訳あるか!お前の腕力でそないなことしたら、この人達ただでは済まんやろ!」腕の発言に慌てて焔がツッコむ。


 「あぁ。状況が分からねぇ内に、考え無しにこいつらを傷つける訳にはいかねぇ。」赤が焔に同調し、腕は渋々手加減して相手を制圧する。


 「今うちの青が情力を使ってこいつらを分析してる…悪いがもうちょっと持ち堪えてくれ!」赤は自身と同じ感情の具現体、その連絡を今や遅しと待っていた…




 書店近くの広場にて。


 「青哀しょうあいひとみ、何か掴めたか?」透那が目の前の暴徒に肘鉄を喰らわせながら青に問い掛ける。


 「……なんてことを……!?」目を合わせた者の過去を見ることが出来る瞳は、悲しみに苦悶の表情を浮かべつつも怒りによってその目の青さがくすみかけている。


 「なんか分かったんすか瞳さん!?」体術で暴徒を倒しつつも黄が声を上げると、瞳も眼前の者の腹を刀の柄頭つかがしらで軽く小突いた後、重々しく口を開く。


 「…彼らは無理やり情力を発現させられている…これは意図的に引き起こされた感情の暴走、いわば…暴情ぼうじょうです!!」「感情の…暴走だと…?」透那が怪訝けげんそうに聞き返す。




 「感情の暴走?」場面は変わり真白の心象風景、つまり彼女の心の中である。ここでも同じく真白が疑問を口にした。


 「えぇ。激情態並の情念と情力、しかし普通の人にも見えていることから情念の化身たる路情ではない…更には激情紋様が浮き出ていないことから激情者でもない…となると考えうるのは感情の暴走…これ程に大規模な現象です、おそらく意図的に引き起こされたものでしょう…」情力を使って暴徒を分析した青が、大層深刻な顔で分情達に伝える。


 「ワタシ今瞳さんと一緒にいて、彼女も情力で探りを入れてたんすけど…青さんと同じこと言ってます、これは感情の暴走…暴情だって…!」黄は眉をひそめる。


 「暴情……その暴情を止める方法はあるのですか!?」緊迫した様子で尋ねる真白。


 「気を失わせるのはどうっすか?」


 「いや駄目だ…がやってみたが、すぐに息を吹き返して暴れ始めやがる!」黄の提案を赤が否定する。


 「……少なくとも動きを封じれば暴れるのは止められます…しかしそれでは根本的な解決にはなっていませんし、それに……」


 「それに…何だい?」緑が言い淀んでいる青を見る。


 「…暴情となっている人達を早く元に戻さないと……彼らの心がり切れ、皆廃人になってしまう…!」

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