「使役」と「具象化」

 揺らめく炎に照らされている灯火…彼女の言ったことを聞き、焔は一層表情を険しくする。


 「「使役」と「具象化」…」


 「先程から貴様をずっと観察していたが…貴様はこの二つの内「使役」しか使っていなかった。まぁ結局のところ「使わない」ではなく「使えない」だけの話だったがな…このことは普通、「怒り」の具情者となった時点で本能的に気付くはずだ。貴様がこのことに気付けなかった理由、それは…貴様がまがい物の具情者だからに他ならない。」灯火はあからさまに軽蔑した目で焔を見る。


 「…紛い物の具情者か…言うてくれるやないの…」焔の武器を持つ手に力が込もる。「ほなったら見せてもらおうか…の具情者とやらを!」


 焔がもっている武器を強く振るう。「花火玉…五号!」するとその武器から火の玉が放出され、灯火目掛けて飛んで行く。「菊!」焔が続けてそう叫ぶとその火の玉が分裂し、まるで炸裂弾のように灯火に襲い掛かる…が、


 「話を聞いていなかったのか?」灯火の燃える左腕が生き物のようにうねり、その火弾を振り払って焔の攻撃を無効化する。


 「本質を理解していない貴様の火如きが、当方の崇高なる炎にまさることはない…偽物の力で真なる力をもつ当方の前に立ったこと…今から存分に後悔させてやる!」灯火は火炎を再び腕の形に戻し、両手で構えた火鋏のきっさきを焔の方へ向けた、そして…


 「豪火ごうか!!」


 そう叫んだ瞬間、今までとは比べ物にならない質量の火炎が大きな塊となり、焔目掛けて射出された。着弾箇所から鼓膜が破れそうな程の爆音と高熱が撒き散らされる。


 「紛い物の具情者よ…せめてその身を燃やし尽くし、我が作品へと昇華するがいい…」火鋏をビュンと振るって煙を払うと、灯火は語り掛けるように言葉を放った……




 「ほんま悪い冗談やで、肉体が火炎に変わるとか…なんや、「何の実の能力者だ!?」とか聞いてほしいんか…?」




 灯火はその声に驚き、目の前の燃え盛る火炎を凝視した。するとその火炎が弾けて消え、中から焔が姿を現す。


 「な…無傷だと…!?一体どうやって…」唖然としている灯火を面白そうに眺め、焔が事も無げに説明する。


 「相殺そうさいしたんや…の火でな。」にやりと笑みを浮かべる彼女。


 「驚きついでにもう一個ええの見せたるわ…多分お前が今まで見たことないもんや。」そう言い放った焔、すると彼女が手にしている鉄棒の火がどんどん小さくなってゆき、しまいには消えてしまった。


 用心しながら焔を見ている灯火はすぐに焔の変化に気付く。(何だ…やつの体から…陽炎かげろう…?)灯火の言うように、焔の体からは無色透明、煙のようなものが揺らめき立ち、空間を歪ませている。


 「一応忠告しといたる。今からお前に対して真正面から、下から上にこの鉄棒を振り上げる…多分避けれへんと思うから、死ぬ気で防御しぃや。」そう言い終わると焔は突進の構えを取り、攻撃に備えた。


 (馬鹿な…!やつと当方は25m程離れている…この距離がありながら「避けれない」だと…!?)そう思いながらも焔の放つ情念に気圧けおされ、彼女は言われた通り完全防御の体勢を取る。「ほな行くで!」焔の声が響き、そして…


 …気が付けば灯火は後方に吹っ飛ばされていた。


 (!?…今…何が起きたんだ…?知らぬ間に後ろに飛ばされていた!?……そんな…腕が折れて…!!)


 灯火の身体は数十m飛ばされたのち、廃墟の一つに激突してようやく止まった。


 「巫山戯ふざける…なよ…なんだこれは…!」平静を失っている灯火の前に、まるで瞬間移動をしたかの様にもの凄い速さで眼前まで来た焔。灯火はその速さに尚更驚愕、刮目かつもくする。「!!き…貴様、一体何を!?」


 「落ち着け落ち着け、ちゃーんと説明したるわ…それよか、怪我大丈夫か?」


 「……腕が折れている、あとは全身打撲、鈍痛どんつうで暫く立ち上がれそうもない…」


 焔は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。「あー…済まんやり過ぎた、流石にこの戦法やとうちも中々加減出来んくてな。でもあれやで?あんたもうちのこと「ニセモノや!」とかゆうて挑発するから…」


 「そんなことはどうでもいい!お前は一体何をしたんだ、と聞いているのだ!!」灯火が語気を荒げる。


 「まぁまぁ、そう怒りなて。」焔は灯火に向き直って、自分の情力について解説を始めた。

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