鉄は熱いうちに打て

 「いいねぇいいねぇ、やっぱ人生ってのはこうでねぇと!てめぇもそうは思わねぇか?なぁ具情者!」


 韋駄天と爪は互いに血を流しながら、それでも嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 「…そうだね…ホントはこんなこと思っちゃいけないんだろうけど…」


 戦いの最中であるにも関わらず、韋駄天は構えを解いて棒立ちになる。


 「…キミが次々と繰り出してくる攻撃が楽しみでたまらない……ワタシの考えた戦略が通じないのが楽しくて堪らない!……ワタシの目の前で!!」


 急に韋駄天が手を爪の方へ向ける、すると韋駄天の足元から銀色の何かが爪目掛けて、まるで矢のように素早く飛来した。あまりにも突然の出来事に爪は不意を突かれ、体勢を崩すもなんとかその攻撃をやり過ごす。そして韋駄天の方を見やった爪の目は、思いもよらぬ彼女の変化を前に大きく見開かれる。


 「……ワタシの知らないことが起こるのが……楽しくて仕方がないんだよ……!」


 満面の笑みを浮かべた韋駄天は、でそんな爪を見た。


 「…どういうことだぁてめぇ…「喜び」の具情者じゃなかったのかよ…!?」ふてぶてしげな笑みを浮かべつつも、爪は内心相当困惑していた。それもそのはず、二つ以上の情力を発現させる具情者など、彼女は今まで聞いたことすらなかった。


 (さっき飛んできたのは…鉄か?…どうやらそうらしいな、やつが身に着けていた脚の武装がなくなってやがる…)


 爪は目を細め、熱に浮かされたような目をした韋駄天はニヤリと顔を歪ませる。


 「…その様子だと気付いたみたいだね、ワタシの新しい情力。そう、どうやら「楽しみ」の具情者としてのワタシの力は「鉄を操作する」ものらしいよ。問・題・解けぇぇぇっっつ!!おかげでもう毎度毎度、クソ重い鉄球を持ち歩かずに済みそうだきゃはははは!!」


 ハイになった韋駄天が再び手を動かす、すると爪の足元に散らばっていた鉄が再び形を成し、爪に襲い掛かった。爪はそれらを引っ搔き回し、致命傷を負うことをなんとか回避している。


 (やべぇ…やべぇよ何だこの展開は!……嬉しすぎて身体が震えてきやがった…!)身体中傷だらけ、圧倒的に不利な状況にもかかわらず、爪はますます「喜び」の増幅を感じていた…




 その頃。 


「くそっ、能書き垂れるだけのことはあるやんけ!あいつ中々…いや、かなり情力の扱いに長けとる…!」焔は想像以上の強さを誇る灯火に梃子摺てこずっていた。


 「……」


 その灯火は焔のいる方向に手を向け炎を仕向けていたが、急に攻撃をやめた。


 「…?…」眉をひそめる焔を、彼女がじろりと睨みつける。


 「貴様…なんだその愚かな力の使い方は…当方を侮辱しているのか!」「はぁ?なんやねんいきなり?」焔が怪訝けげんそうに聞き返す。「聞こえなかったか?貴様の戦い方は「真善美」とは程遠いところにあると言っているのだ!」語気を強める灯火。


 「まさか貴様…知らないのか…?我等「怒り」の具情者、その力の真髄しんずいを…?」


 「「怒り」の情力…その真髄やと…?」


 灯火は大きく息をつく。「やれやれ…当方と同じ火炎を操りし者故、多少は期待していたのだが…どうやらとんだ見込み違いだったようだな…」


 話を続ける彼女。「…まぁよかろう。冥途めいどの土産だ、教えてやる。」


 手にしている火鋏を軽く振ると、彼女の眼前に炎が生成される。(…あれ?デジャヴ?)生粋のツッコミ担当である焔は内心そんなことを思っていたが、「怒り」の具情者の真髄が気になったので自重する。


 「このように「怒り」の具情者には、四代元素のうちいずれかを操作できる力が備わっている。当方や貴様の場合「火炎」だな…しかしそのは、他の具情者にとってのそれとは少し意味が異なるのだ。」


 灯火はおもむろに武器を持っていない方の腕を上げ…その瞬間彼女の腕が燃え上がり、瞬く間に火炎と化した。驚きに目を見開く焔に灯火が言い放つ。


 「怒りの具情者にとって…「操作」とは「使役」と「具象化」を意味する。」

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