膠着(こうちゃく)状態

 「やれやれ、随分ギャラリーから離れてしもうたなぁ…」


 焔と灯火もまた街から少し離れた石造りの建物の廃墟、そしてその残骸が散らばる草原に来ていた。


 「当方とうほうはあの街を気に入っている、荒らしたくないのでな。」そういった灯火は手にしていた火鋏ひばさみを肩に担いだ。


 「さて、貴様には私の作品になってもらう。」


 「…は、作品?」


 唐突に訳の分からないことを言われ、いぶかしげに聞き返す焔。しかし灯火は構わずに続ける。


 「先に教えておいてやろう。当方の情力は「烽火ほうか連天れんてん」、つい先程少し見せたが炎を操るたぐいのものだ。」灯火は空いている方の手掌しゅしょうを広げ、そこに小さな炎のかたまりが生まれる。


 「炎とは不可思議なものだ…始原のきざしであり、終焉の象徴でもある。」彼女はその炎を指でもてあそばせる。「分かるか?炎とは輪廻りんね、永遠だ…そしてその力を授かりし当方には、その永遠を具現させる義務がある…」


 焔の眉間にどんどん皺が刻まれてゆく。(こいつ…さっきから何を言うとんのや?)


 勿論分かってなかった。


 「その義務とは…」阿保あほうの焔をよそに、突然灯火が手の平を焔に向けその炎を射出した。


 「なっ!?」間一髪、焔はその炎弾を避け、慌てて再度武器に情力を発現させる。「情力発現、勇火いさみび!!」ファイアスターターに似た鉄棒とその鞘をこすり合わせて火花を散らし、その火種から火を噴出させた焔…赤い目に軽い怒りをにじませながら、彼女は灯火に言い放つ。「なんやねんお前!急に意味分からんこと言い出したと思ったら炎ぶっ放してきおってからに!」剣幕けんまく激しい焔に対し、灯火は先程と変わらぬ調子で淡々と告げる。


 「燃焼こそが永遠、美しく燃ゆる炎よ…さぁ「怒り」の具情者、くすぶる当方の美を燃え上がらせてくれ!!」危険な笑みを浮かべ、灯火は再び炎を焔に差し向ける。


 「話聞けや!あぁもう上等や!なんやよう分からんけどお前の炎とうちの火、似たもの同士対決したらぁ!!」焔が手にする鉄棒、その火が勢いを増した。




 一方の真白と緑。


 「まだついてこれるか…やるもんだねぇあたいの本体殿も。」彼女達の追走劇はかれこれ二十分程続いている…緑が仕掛ける様々な氷の罠を真白は「怒り」の情力を用いて打破し、距離が開けば「喜び」の情力に切り替えてすぐそれを詰める…そんな一進一退の攻防が繰り広げられ、今も真白は緑の少し後ろにつけていた。


 「…!負けを認めたのですか?」


 急に逃げるのをやめて立ち止まった緑に驚き、真白が言う。気が付くと真白達は、街から少し離れた荒野まで来ていた。


 「…気付いてると思うけど…あたいはあんたを誘い出してたんだ…人気ひとけのない所までね。」


 「…何はともあれわたしはあなたに追いつきました、これで条件は満たしたはずです。」


 「あぁ、それなんだけどね…」緑は意地の悪い笑みを浮かべてこう言い放つ。「悪いけど気が変わっちまった。」そういうや否や、真白めがけて冷気を差し向ける。


 「な、約束を破る気ですか!?」横に飛び退いてそれをかわした真白は思わず文句を垂れた。対する緑は悪びれた様子もなく口角を上げる。「ふふっ、まぁいいじゃないか!さぁ、このあたいを倒してみな!」


 「……仕方ない…自分をなぶるのは気が進みませんが…少々痛い目に遭ってもらいましょうか!!」


 怒気を強め、色の変化した赤い目を細める真白…その足元から水が上に向かって噴出される…その様子を、緑は心から楽しそうに眺めていた。「いいねぇ…第二ラウンド、スタートだよ!!」


 緑は背中に背負っていた刺叉さすまたのようなものを手に取り、U字型の間に情力で氷を張って槍を形成した。対する真白も手にした警棒の表面に高速で水を循環させ、即席のウォーターチェーンソーを作っている。


 「へぇ、面白い力の使い方だ!」そう言った緑は真白に突進し、槍を突き出す。氷と水流が触れ、ジィっと音を立ててそれを受け止めた真白…彼女の攻撃を押し返し、逆に追撃を繰り出す。


 「水鉄砲!!」


 真白は赤が使っていた技を拝借し、緑目掛けて早い勢いの水弾を放った、しかし…


 「甘い甘い!」緑は情力でその水弾を凍てつかせ無力化する。「そうら、お返しだ!」氷の槍を振り払うと、その凍り付かせた水弾からいくつかの小さな氷塊が生成され、真白へと射出される。真白は地面に警棒の先を押し当てた、すると彼女の周りを囲むように水の壁が出現し、氷塊を削り散らす。その後も両者の攻防がしばらく続いたが、どちらとも決定打を与えることは出来ていない。

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