第四章:青と哀編

レーゲンスブルクへ

 「んで、次はどっちの感情の所行くんだよ?」そう言ったのは赤だ。結局黄と同様、一部のみを真白へ還すこととなったので、彼女は今もとして存在し続けている。夜が明けて太陽が眩しい朝、彼女達は街から少し離れた草原で朝食を囲んでいた。


 「韋駄天さん、ここからだとどちらの分情が近いですか?」真白が尋ねると「えーっとね…「哀しみ」かな!今ドイツのレーゲンスブルクって街にいるよ…へぇ…彼女、ジャズバンドのドラマーとしてそこそこ有名みたいだよ!今度その街でコンサートをやるらしくて、それで今日から二、三日くらい滞在する予定なんだってさ。」スマホを見ながら韋駄天が答える。


 「ほんなら次の目的地は、そのレーゲンスブルクってとこで決まりやな!」焔が相槌あいづちを入れると、「え、ドイツ行くの?アタシ付いてってもいい?」突如糸が、元気良く挙手をしながら声を上げた。


 「いや~、実は前から一回行ってみたかったお店があるんだよね~ウインナーで有名なとこ!勿論自分の旅費は払うし、真白ちゃんの件で何か協力出来ることがあったら力になるから!ね、お願いっ!」手を合わせて笑みを浮かべる彼女、その様子は麗しい見た目と相反してとても可憐だ。


 「な、ちょ、ちょっと待てよ!お前がいなくなったらうちの店はどうなるんだ!?」そんなことは寝耳に水の赤が、慌てて糸を止める。「だぁいじょうぶだってぇ、そんな長いこと空けないから!なんなら赤も一緒に来る?」「行かねえよ!つぅかおれの一部はもうこいつん中に戻ってんだ、結局一緒に行くようなもんだろうが!…いやそうじゃなくて!話変えんな!」額に青筋を立てる赤。


 「…焔…彼女とコンビ組んで賞レース出てみない?」ぼそっと言う韋駄天。「はぁ?なんでうちが笑いでテッペン目指さなあかんねん!?そもそもあいつツッコミやろ?Wツッコミは今の時代に合わんのちゃうかと…いや誰がツッコミじゃボケ!!」「おお!流石関西弁のノリツッコミは違うねぇ!」「お前ちょっと黙れや!」あちらこちらでミニコントが始まり、話が完全に混線していた。


 「えー、それではドッペルゲンガーの次なる目的地はドイツのレーゲンスブルク、そして糸さんは私達に同行する…それで大丈夫ですね?」場をまとめた瞳の確認に対し、ドッペルゲンガーの面々、そして糸は頷き返す。


 「あの…それって私も付いて行っていいんですか?」晶が少し気恥ずかしそうに瞳に聞く。「勿論!確かレーゲンスブルクには世界的に有名な帽子屋さんがあったはずです。折角だから行ってみてはどうですか?」そう言われた晶は嬉しそうにはにかんだ。


 「え、あなたファッションに興味あるの!?アタシもなんだっ!じゃあさ、向こうに着いたら一緒にその帽子屋さん行こうよ!」「え!?あ、あの…」ぐいぐい来る糸に少しビビる晶だったが、ともかく彼女達の向かう先はドイツに決まった。




 レーゲンスブルクまでは列車が最も行きやすい、ということで、真白達は朝食の後すぐにフランスを発つこととなった。「んじゃ、行って来るよ…あーごめんね、結局お店しばらく休ませることになっちゃって。」ストラスブール駅構内、トランクケースをカラカラと引く糸は、あぁは言っていたものの多少は気にしていたようで赤達に手を合わせる。


 「…まぁそこまで深刻なことじゃねぇからあんま気にすんな。それにそう思うんなら、出来るだけ早く戻って来てくれると助かる。」赤はそっぽを向きつつも、そんな糸をりげ無くフォローする。


 「やれやれ、せっかくの仕込みが水の泡だな。」少し呆れた様子で呟く透那だったが、「まぁいいじゃねぇか、おれ達もここ数日働き詰めだったんだ。どうせならおれ達も観光なり何なりして羽を伸ばそうぜ…それに仕込みならほら、こいつが全部食ってくれるしな。」そういって指をさされた腕は早速フランスパンにハムやレタスなどを挟み、特大サンドイッチにして頬張っていた。「貴様は本当に食べてばかりだな…」そんな彼女を見て、透那は大きく溜息をついた。


 赤が真白をじっと見つめる。「…次の感情は「哀しみ」だよな?」「はい。」そして赤は眉間に皺を寄せる。


 「あくまでおれの予想だが…おれ達がこんなことになったきっかけの感情は多分「哀しみ」だ…つまり、「哀しみ」は最も情力が強いと予想される分情ってことだ…覚悟はしといた方がいいと思うぜ。」


 「…はい!」それだけ言うと、赤はくるりと背を向けて駅の出口へと歩いて行った…腕と透那もそれに続く。「さて皆さん…行きましょうか!」真白達はしっかりとした足取りで、低いうなり声をあげて待ち構えている列車に慌ただしく乗り込んでいった。

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