腸(はらわた)

 「…まぁ話は分かったよ…けどな、わりいが今のおれにはおれの生活…いや、おれの人生がある。いくら自分とはいえ、それを無条件ではいどうぞと渡す訳にはいかねぇんだよ…それに…」赤は真白を指差す。「てめえは一度おれ達を切り離した、何故だか分かるか?」真白は首を横に振る。「それはな…感情が揃っていた時のおれ…いや、が、感情を保持していられなかったからだよ。」


 「感情を…もっていられない…!?」真白は目を見開く。「かつておれ達には、感情を切り離さざるを得ない、何か衝撃的な事があったんだよ…身体から感情だけが抜け出る、なんて巫山戯ふざけたことが起こる程におれ達を追い詰める出来事がな…残念ながらおれにもその記憶はねぇが、その「怒り」だけはしっかりと感じてる…こりゃ半端なモンじゃねぇ…つまりその感情を回収するってことは、このやり場のない凄まじい「怒り」も一緒に思い出すってことなんだよ!」赤は力強い目で真白を見る。


 「やり場のない…怒り…」


 「てめえは既に「喜び」の感情を取り戻してるみてえだが、「怒り」は負の感情だ。安らぐことのない苛立ち、焦燥…それを受け入れる覚悟がてめえにあんのか?」


 皆の視線が真白に集まる。少しの沈黙の後、真白が唇を動かし始めた。


 「これがあなたのいう覚悟なのかどうかは分かりません…でも、断言出来る事が二つだけあります…」


 赤は目を細める。「断言出来ること、だと…?」


 「わたしは…たとえ何が待ち受けていようとも自分の過去を思い出したい…それに…」真白と赤の目が合う。「あなたの言っている事が事実なら、あなただけに「怒り」の辛さを背負わせる訳にはいきません!」


 「…!」赤は思いもよらなかった二つ目の答えに目を丸くした。真白と赤以外の者達が、息を呑んで二人の行く末を静かに見守る………


 「……てめえの本心はらは見えた…いいだろう、「喜び」の分情と同様、一部だけてめぇに返してやる。」真白は赤の言葉をしっかりと聞き、頭を下げた。「ありがとうございます!」赤は無言で手を差し出す。皆が息を呑んで見守る中、真白はその手を握り……




 –––土埃つちぼこり、爆発音、鈍痛…不快な環境の真っ只中ただなか、わたしはひどく苛立っていた…本当に環境のせい?…他にもっと何か…到底許容出来ないような…鉤爪で心を搔きむしられたような…その元凶を、どんな手を使ってでも存在を完全に抹消してやりたいと思わせる何か…断じて許すことの出来ない何者かが…–––




 「真白…」「ごめん、ちょっと風にあたって来る…」真白はワゴンを離れて近くの森に入った、そして一番近くにある岩を…力一杯殴りつける。岩はがらがらと大きな音を立てて砕け、ざぁっと土煙が舞った。


 「何で…何でわたし達が…こんな目に!」真白は拳からボタボタと流れる赤い血にも気付かずに、荒々しくそんなことを呟いていた。


 …その目にいかりたずさえながら…

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