お気に入りの飛び道具

 「かなり広範囲に渡って破壊されていますね…」街中を駆け抜けながら瞳が呟く。「ええ、折角せっかくの美しい街並みが…残念です。」晶がそれに同調する。


 「この辺りでいいだろう。」前を走っていた透那が立ち止まり、そして左足で二度地面を蹴った。「…?」首を傾げる瞳に透那が言う。「気にする必要はない、どうせ言っても分からんだろうしな。」鼻で笑った彼女は腰の小さな袋に手を入れ、そしていきなり瞳達目掛けて何かを投げつけた。


 瞳は小振の方の刀を抜いてそれらを打ち払い、晶は大きく横へ飛んで回避する。「…苦無くないとはまた、随分古風な武器を使いますね。」小刀を構え直す瞳。


 「機能性の良い武器だからな、此方こなたも気に入っている…ところでそんな詰まらぬことを気にしている余裕が、果たして貴様らにあるのか?」その挑発に晶が眉をひそめる。


 「こうして此方こなたと貴様らの間に距離が出来た、そして周りには身を隠せる遮蔽物しゃへいぶつの山…さあ、此方の戦場いくさばは整った!」そう言った透那は再び腰の袋に手を突っ込み、そこから煙幕を取り出して地面に投げた。その隙に文字通り自身の姿を煙に巻き、瓦礫がれきのどこかに身を隠したのだ。


 「あら、またこの戦術ですか?」少し可笑しそうに晶を見る瞳、彼女はバツが悪そうな顔で頬を染めつつも瞳に尋ねる。「瞳さん、あなたの情力って確か「相手の過去を視る」というものでしたよね?じゃあさっき…」


 「えぇ、彼女の過去を視たので、彼女の情力や戦い方は既に分かっています。彼女の情力は「透視」、つまりあちらにはこちらの姿が瓦礫越しにはっきり見えているということです。」瞳は人差し指を上げる。「そして安全な場所からさっきみたいに遠距離攻撃を行い、確実に相手を仕留しとめる…これが彼女の戦法です。」彼女は掌をパッと広げ晶への説明を終える。


 「時に晶さん、今の貴女の最大射程距離はどれくらいですか?」


 「え?えーと、手持ちの武器だとそうですね…3km圏内なら、多分外しません。」


 晶は戦闘に備えて持ってきていた、ギターケースでカモフラージュした小型スナイパーライフルをちらりと見て答えた。彼女はその特殊な出自故、銃刀法を無視する気概とその技術を持ち合わせているのだ。日本では手に入りにくいスナイパーも、のツテで手に入れたのだろう。


 「ふふ、流石ですね。では最も威力の弱い銃だとどうですか?」「30m位かと。」「分かりました…では私がおとりになりますので、晶さんは隙を見て彼女を狙撃し、行動不能にしていただいてもよろしいですか?」


 晶は思わず聞き返した。「え…撃っても大丈夫なのですか?」そんな彼女に業務的な口調で応じる瞳。「?何か問題でも?命を奪うわけではないのですから大丈夫でしょう…なんなら喧嘩両成敗ということで、一発くらいは撃たれてあげてもいいですよ。」


 「…あなた争いは嫌だと言っていたのに、存外人を傷つけることに対しては躊躇ためらわないんですね。」「争いは嫌いですよ?ですから最も効率的に戦いを終わらせる戦略を立てたつもりですが…どうしました?」本心からそう言っている様子の瞳を見て唖然とする晶。


 「……まぁそういう考え方もあるか…では私は、少し離れた所から狙撃のタイミングを伺ってます。」「お願いします。」晶は瞳から離れ物陰に身を隠した。


 (…あの目、少しゾッとした…揉め事中とはいえ、一応会ったばかりの他人をあんなに簡単に「撃て」と言うだなんて…彼女もしかして、の人間なの…?)瞳の意外な一面を垣間かいま見て、思わず身震いをする晶だった。




 一方その頃、韋駄天と焔、そしてかいなは、街外れのひらけた場所に到着していた。


 「さて、どう戦うか…焔、何か策ある?」「そやな…とりあえずメインはあんたに任せるわ、うちはそのサポート。情力上その方が都合ええやろ。」「了解!」彼女達は短いやり取りの後、腕に向かって構え直した。


 「まったく…お店閉めたら打ち上げする予定だったのに、路情が出てくるわ訳分かんないヤツらが現れるわでホントめんどくさい…お腹も空いたし。」気怠けだるそうな口調でそう言うと、彼女は背負っていた大きな荷物の布をほどき始め、なんと身の丈程もある大きな斧を取り出した。


 「そんじゃあいくよ…後悔しても遅いから!」大きな斧を手に、腕が韋駄天に向かってくる。韋駄天は例の液体金属を操作して脚にまとわせ、腕が振り下ろした斧を蹴りで受け止める。


 (うわ、重!!)小柄な少女から繰り出されたとは思えないずっしりとした一撃、韋駄天は勢いをなしながら大きく後ろへ飛ぶ、しかし…


 「韋駄天、気を付けろ!」


 焔の叫びを聞いた韋駄天が前を向くと、先程と同じく腕が瓦礫を彼女に投げつけている。「危ないなぁもう!」上に跳躍しそれも避ける韋駄天、しかし力押しで息もつかせぬ怒涛どとうの攻撃を続ける腕に、二人は中々反撃することが出来ずにいた。

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