赤と怒

 「ここなら誰もいねえだろ…」


 その頃、真白と赤も他の者同様場所を移動していた。「さあ、最後通告だ…もう二度とおれの前に姿を見せねぇってんなら見逃してやる。それが嫌なら…」赤は鉄棒を真白に差し向け、「…てめえを消す。」どすの効いた声で言い放った。



 –––真白はそっと目を閉じる、そして再び目を開けると、目の前の景色が変わっていた。どこまでも広がる空を、同じくどこまでも広がる水面が鏡のように映し出している。


 「どうも、真白さん。」


 そこにいたのは真白の「喜び」の分情、こうだった。「ここでこうして相対するのは初めてっすね。」「えぇ。あなたがわたしに還った時、この場所を知ることが出来た…ここは……わたしの心の世界…」黄は頷く。


 「それはさておき、とりあえず最初からあたしの力を使っといた方がいいと思うっす。あちらさんは完全にあたしらを消すつもりみたいですし、いくらあなたの情力が超回復だからといってわざわざ痛い思いする必要はないでしょ…まぁ誰が言ってんねん!って話っすけど。」少し前に真白をメッタメタにボコりまくった黄は、気まずそうにはにかむ。


 真白はそんな彼女を見て、思わずふっと笑みをこぼす。「そうですね…では、お言葉に甘えて……」–––



 「…てめえ、もう既に「喜び」の感情を…!?」再び現実の世界、開かれた彼女の目は…黄色だった。


 「悪いけど…このまま引き下がるつもりはないですからね!」腰の警棒を取り出した真白は、黄の情力「黄粱こうりょう一炊いっすい」を使って一気に赤との距離を詰める。既に一つ感情を取り戻していた事に驚き隙が出来てしまった赤、彼女の攻撃に反応が一瞬遅れ、防御態勢を取り損ねてしまう。


 「隙あり!」真白が警棒を横に振り抜こうとした、が…「うわっ!!」突如、赤を中心に弧を描くように水が回転し、その勢いで真白は後ろに弾き飛ばされる。「彼女の情力は…水か。」体勢を整え直した真白が呟く。


 「そう、おれの情力「水天すいてん髣髴ほうふつ」は水の操作だ…水は目に見えねぇだけで常におれ達のそばにある…そしてその形は変幻自在、てめえを遠ざける盾にも、てめえを切り裂く刃にもなり得る。てめえの実力が如何いかほどかは知らねぇが…そう簡単にこのおれを倒せると思うな!!」


 赤が手を振る、すると彼女の周りを漂っていた水が姿を変え、縄のような形状となって真白に迫った。


 真白は黄の情力を使ってその水を走りけ、攻撃の機を伺う…しかし赤の戦闘スタイルはまさに攻守一体、彼女に触れることはおろか、近づくことさえ容易には叶わない。


 「言うだけのことはありますね、攻守共に隙が見当たらないです……仕方ない。」真白の目の色が元に戻り、彼女は赤と相対する。「やっぱり多少は、痛い思いをしないといけないみたいです…それに…その方がわたしらしい!」

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