瓦礫の中

 「はぁ…はぁ……思ったよりいたなぁ、路情。」


 黄色の目をきらめかせながら次々と路情を消滅させていった韋駄天…彼女はその情力を活かし、速さで敵を翻弄ほんろうする戦闘スタイルを確立したようだ。強化された脚力を発揮し、格闘技のカポエイラをベースにした蹴り技主体の攻撃を華麗に展開させ、大量にいた路情を文字通り蹴散らしていった。だが一方で消耗は激しく、彼女は大いに息を乱し、肩を上下に動かしている。


 「…っていうか気付いたら真白がいない…あはは、ちぃとはしゃぎすぎちまったぜぃ……大丈夫かな…」心配そうに後ろを振り返る韋駄天。「……戻るか、路情もあらかた片付いたし。」真白の所へ戻ろうとしたその時…


 ”Attention!!”(気を付けろ!!)


 空から声が響いた。


 韋駄天が上を向くと、何かが降ってくる…人だ、人が落ちてきた。更にその人から大量の水が放出され、韋駄天の気付かない内に彼女の周りに群がっていた路情達を一掃する。


 ”Hé, êtes-vous blessé?”(怪我はねぇか?)


 フランス語を話すその人物はまさしく、ドッペルゲンガーが探していた真白の分情「怒り」であった。


 「あ!!」韋駄天が急に大きな声を上げたので、その分情はビクっと驚く。


 ”Aie! Ne parlez pas soudainement fort!”(うわ、急に大きい声出すんじゃねえよ!)


 少し顔をしかめて韋駄天を注意する。「まさかそっちから来てくれるとは!」焔同様フランス語が分からない韋駄天は、分情の言うことを無視して彼女に話し掛ける。


 「日本語…?なんだてめぇ、フランス語分かんねーのか…しゃあねぇ、なら日本語で話すぞ。急に大きい声出すんじゃねえ、ビビっただろうが。」赤い髪の少女は使用言語を切り替えた。「つうかてめえ今、おれを探してた、みたいなこと言ったよな、どういう意味だ?」不審そうに目を細める彼女に「うーん、どう説明したらいいのか…あ、真白!」韋駄天を追っていた真白がようやく到着した。


 「!?う、くっ…!」黄の時と同じく、「怒り」の分情は真白を見た瞬間頭を押さえ、膝から崩れ落ちる。


 「……てめえ…何しに来やがった!!」


 黄の時と同様自身が真白の分情である事を悟った彼女は怒りで顔を歪ませ、赤く揺らめかせたその目で真白を射ぬき、怒声を浴びせる。


 「あ…あなたとはな、話をしに来ました、ひ、ひとまず落ち着いて下さい!」流石に面食らってあたふたする真白だったが、「今更てめえと話すことなんざ何一つねぇんだよ!とっととおれの目の前から消えやがれ!さもねえと…」「怒り」の分情が持っていた鉄の棒に空気中の水分が集まり、やがてチェーンソーのように超高速で鉄棒の外枠を循環じゅんかん移動し始めた。「てめえをぶった切ってやる!!」


 「ちょっ、あの顔本気っぽいじゃん!?…どうする、真白?」韋駄天も彼女の剣幕に気圧されて、冷や汗をかきつつ真白の判断を仰ぐ。


 「と…ともかく、話を聞いてもらわないことには…」真白は自分と瓜二つの少女に、かつてない剣呑けんのんさを感じていた。

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