休み時間

 「…ていうかみんな同じ学校だったの!?」目をぱちくりとさせる韋駄天。


 「朝っぱらからうるさいやっちゃなぁ、ええやんかすぐ集まれて。」耳を押さえながらジト目でツッコむ焔。


 「確かに驚きましたね…というか、貴女あなた学生だったのですか?」半目で血染を見る瞳。


 「何さ、不都合でもあるのかい?」そんな彼女に、血染は悪戯いたずらっぽく笑い返した。


 ドッペルゲンガーの一同は休み時間に真白の教室へ集まっていた。どうやら全員が同級生で、しかも同じ学校だったようだ。


 「まぁいいさ、それよりも真白に関して一つ言いたいことがあるんだよ。」血染が腕組みをする。


 「ドッペルゲンガーって言葉を聞いてふと思ったんだけどね、これって確か「自分がもう一人の自分を外界に認識する」って怪奇現象を指す言葉だろう?そこで考えたんだよ…真白の感情、真白からとは考えられないかい?」


 「抜け落ちた?」首を傾げる焔。


 「あぁ。何らかの理由で彼女の感情がここに居る本体から放出され、この真白とは別者としてどこかで存在してるってことさ。そしてその感情と共に…」


 「記憶も一緒に抜けてしまった、と。」瞳の言葉に血染は頷く。


 「感情だけが独立して存在する!?そんなことが…」


 「あり得なくはないだろう?情力なんてものが実在してるんだから。まぁ所詮しょせんはあたしの思いつき、常識的に考えたら真白は、過去に何か記憶喪失になる程に衝撃的な出来事を経験し、感情が上手く機能しないのもその後遺症と考える方がもっともらしい。あくまであたしの推測として聞いといてくれ。」血染は肩をすくめる。



 「……それは思いつかなかったなぁ…!」


 韋駄天が突然声を上げたので、皆少し吃驚びっくりして彼女の方を見る。「いやあ、ワタシもまだまだ固定観念から逃れられていなかったみたいだ…本体と感情の分離…情力なんてぶっ飛んだものをかんがみればそっちの方が合理的でさえあるよ、瞳もそう思わない?」


 急に同意を求められた瞳は、韋駄天の熱量にたじろぎながらも応答した。「…ま、まぁ、ありえなくはないかもしれませんね。情力は強い感情を源とする力、ならばその感情が独立して存在していたとしても特に可笑おかしな話ではない…ということになるのでしょうか…?」


 「真白、何か思い当たることある?例えば行ったことのない場所の記憶があるとか。感情が独立していたと仮定すれば、ひょっとしたら真白とリンクしてるかも…」


 「……」韋駄天が真白に聞いてきたが、心当たりの全くない彼女は首を横に振る。


 「そっか…まぁいいや、ちょっとそっちの方向で調べてみるよ!ゴメ、席外すね!」韋駄天はそう言ってどこかに向かおうとする。


 「おい、どこ行くねんお前?それにそっちの方向でって、一体何を…?」


 驚く焔へ、韋駄天が矢継ぎ早に言葉を畳み掛ける。


 「さっき言ったみたいに感情が抜け出たと仮定するでしょ?そしたらまずその抜け出た感情がどのように存在するか、そして存在するならその在処ありかはどこか。ワタシ達の居る世界なら、次はワタシ達に感知、認識出来るのかどうか。とりあえずは一番楽観的な仮説「真白の感情はこの世界に、ワタシ達に認知可能な様態で存在している」から検証していこうか。」


 「…え?ちょ、全然分からんかったんやけど!?」焔が目を白黒させながら韋駄天に聞き返す。


 「要点だけ言うと、AIを使った画像の分析と検索だよ。」


 「AI?」


 「そ。この情報社会、監視社会で何の映像にも残らないことはほぼ不可能だ。という訳で、今から世界中のカメラにアクセスして、SNSでアップされてたり監視カメラに映りこんだ画像や映像を対象に類似検索をかけ、真白の感情を探し出す…これで大丈夫かな?」あっさりととんでもないことを言い出す韋駄天。


 「な…出来るのですかそんなこと!?」血相を変えた瞳が、驚きと共に韋駄天へ詰め寄る。


 「出来るよ〜!前に暇潰しでそういうシステム作ったことがあるから!」けらけらと笑い、「んじゃ、ちょっと時間もらうね〜」との言葉を残し、韋駄天はこの場を後にした。


 「…真白さん、彼女何者ですか…?」「…あいつほんまなんやねん、具情者とか関係なしにやばい奴やん…」「…ふふ、面白い子だね。」各々が韋駄天に対し、強烈な印象を抱いた瞬間だった。


 「じ、じゃあとりあえずは韋駄天の検索待ちってことで、一旦解散しよか。」残された彼女達は、ひとまず次の授業の準備に取りかかるのだった。

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