第二章:黄と喜編

旅の始まり

 放課後。


 検索が終わったらしい韋駄天が、集まった皆に声を掛ける。


 「どうやら血染の読みがドンピシャっぽいよ、拍子抜けするくらい呆気なく見つかった。」彼女達は、以前真白と韋駄天が焔と接触する作戦を立てた時の喫茶店『Antonym(アントニム)』に集まっていた。


 実はこの喫茶店、真白が現在暮らしているアパートのオーナー、つまり真白の後見人であるかがみ黒曜こくようがマスターを務めている。


 なんでも彼女の喫茶店は、その界隈では知る人ぞ知る名店との呼び声が高く、真白達は鏡の計らいで、周りの目を気にしなくてもいい個室を使わせてもらっている。


 「まさか最も簡単な仮説が当たっちゃうとはね、君と全く同じ容姿の存在が複数確認出来たんだよ〜…てかコーヒー美味しっ!」カップを傾けながら韋駄天が続ける。


 「その数は四人…ていえばいいのかな?喜怒哀楽、ちょうど感情の数と一致してるね。そしてその感情達の姿は…これ!」韋駄天はノートパソコンのエンターキーを鳴り響かせ、画像を映し出した。


 四分割された画面には、彼女の言う通り真白と瓜二つの人物の姿が映っている。しかし彼女とは違う特徴が二つ…


 「こんなことって…髪色違いの真白やん!」


 「えぇ…信じられない、このようなことが…!」


 「目の色も変わってる…ということは、情力を有する者と見て間違いないね。」


 彼女達の言う通り、真白との違いの内、一つは目の色、そしてもう一つは髪の色だ。黄色、赤、青、緑…どうやら彼女達は感情に対応して、目だけでなく髪の色まで変化しているようだ。


 各々が信じられない事実に反応する中、突如として真白は謎の目眩めまいを感じ、倒れこんでしまう。


 「ど、どうしたの真白、大丈夫!?」韋駄天がそんな彼女に駆け寄る。


 「失礼……ふむ、別段身体に異常はないようですが…真白さん、話せますか?」瞳が彼女を簡易的に診察した。


 「だ、大丈夫です、少し立ちくらみを起こしただけですから…」まだ少し視界が揺らいでいたが、真白はそんなことよりも画面上の彼女達が気になっていた。心配そうな顔をしていたが、韋駄天は話を続ける。


 「とりあえず今一番近い所にいるのは黄色の真白、横浜にいるよ。調べた限りでは市内の高校に通ってるみたい。」


 皆が真白を見る。「どうする?もう少し情報を集めてから動く?」


 「いえ、準備が出来次第すぐに向かいましょう!」


 真白の即答に大層驚いたのは韋駄天だった、というのも彼女は今まで、真白がこれほどはっきりと意思表示をするなど見たことがなかったからだ。


 「彼女が同じ所に留まり続けるとも限りません、出来るだけ早く接触をはからなければ!」


 「真白、一体どうしちゃったの!?ずいぶんとまぁ積極的になっちゃって…!」そんな韋駄天は目を皿のようにして真白に声を掛ける。


 (…韋駄天さんのあの口ぶりだと、普段の真白さんらしからぬ反応ということね…画面越しとはいえ自身の分身を見て、彼女の中で何かが変わった…?)瞳は冷静に真白の事を観察し、自身の考えをまとめる。


 「…まぁ真白がそう言うなら決まりだね!そんじゃあ早速、明日横浜に行っちゃおっか!」真白の意見を取り入れた韋駄天はパンっと手を胸の前で合わせ、そう締めくくった。

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