ドッペルゲンガー

 「いやあんた誰やねん!」焔の鋭いツッコミ。「今言ったろう?あたしは緑楽りょくらく血染ちぞめ、あんた達と同じ具情者だよ…まぁ納得いかないなら今手にもってるそれでかかってきな、自己紹介代わりに相手してやるよ。」自ら具情者を名乗るその女は不敵に笑う。


 「…申し訳ありませんが、突然現れた貴女あなたを急に信用することは出来ません。話は伺いますが、警戒態勢を取らせていただきます。」瞳が凛とした声で告げる。


 (何なの…彼女が発するこの情念…!?)


 嫌な胸騒ぎを感じつつ、ロングカーディガンで腰に隠し差した刀のつかにそっと手を掛ける瞳。


 そんな彼女を面白そうに眺めながら、血染は話を続ける。「…フ、まぁいいさ。さて、お許しも頂いたことだ、を再開しようか…あんた達の目的は、そこの白髪の子の記憶を戻すってことでいいんだよね?」


 「聞いとったんかい。」


 焔の野次を無視し、血染は続ける。


 「そしてその為の仲間を集めてる、そこであたしだ。あたしは結構お役に立てると思うよ?具情者と戦ったこともあるし、普通じゃ手に入らないような、具情に関する情報も持ってる…それこそ、あんた達が求めている情報をね。」血染は芝居がかった所作しょさで手をこちらに向ける。


 「あ、やっぱし具情者って他にも実例があるんだね!何だぁ〜、今までワタシはこんな面白い概念を見過ごしてたのかぁ〜!」韋駄天驚きの声に、血染は口角を上げる。「なんや胡散臭いやっちゃなぁ、そもそもあんたがうちらの仲間になるメリットはなんやねんな?」怪訝けげんそうな表情で焔が尋ねると、


 「楽しそうだからさ。」彼女はあっさり答えた…そして更に語る。


 「あたしは「楽しみ」の具情者なんだ…つまり喜怒哀楽の内「楽しみ」の感情が一番強いって訳。「楽しみ」こそがあたしの判断基準であり行動理念なのさ…でもここ最近、とんと面白いことがなくってねぇ、そんな時分に…」


 「ワタシ達と出会った。」


 「その通り。どう?少しは信用してもらえたかい?」


 瞳は真白と韋駄天にささやく。「まだ完全に彼女を信用することは出来ません…しかしもし彼女の言っていることが全て本当なら、私達の目的達成にとってはかなり有益な存在です。それに彼女具情者としてもかなり特殊なみたい、いずれ敵として出くわすよりかは…」


 「今のうちにこっちサイドに取り込んじゃえ、ってことね。真白、どうする?ワタシは賛成かな、彼女面白そうだし。」「韋駄天さんがそういうのなら」真白が血染に声を掛けた。「よろしくお願いします」


 「決まったみたいだねぇ、じゃあ改めてよろしく、えぇと…あんたたちの組織名は何だったかな?」


 「組織名?あー、そういえばまだ決めてなかったね、そりゃそうかーついさっき出来たばっかだし。ちょうどいいや、今決めちゃおうか!何かいい案ある人ー?」珍しく韋駄天が自分の意見を言うより先に、皆に意見を求める。


 「えー、何でもええやんーAチームとかは?」


 「名は体を表すといいます。記憶復元団体、というのは如何でしょう?」焔と瞳がそれぞれ案を出す。


 「…あんた達、案外ノリがいいんだね…というか全部ダサ…」血染が半目でツッコむ。それからも各々がいくつか案を出し合うが、中々良い組織名案が出てこない。


 「うーん、どれもイマイチピンとこないなぁ……真白、キミが決めてよ!そもそもキミがきっかけで生まれた組織なんだからさ!」韋駄天に言われた真白は、霧が立ち込めたような頭を何とか動かし、適当な名がないかと考えを巡らせる、そして……




 「ドッペルゲンガー」




 彼女は呟いた。


 「ドッペルゲンガー?」「ええ、わたしの…いえ、記憶を失う前のわたしが手帳に、この単語を多く書き残していたんです、だから…ドッペルゲンガーに」真白が無感情に呟いた。


 「…へぇ、ドッペルゲンガーか…いいじゃん、気に入った!」韋駄天が指を鳴らしウインクする。


 「ドッペルゲンガー…確かドイツ語やんな?和訳すると…」「二重身にじゅうしん…ですね。」焔と瞳も納得した様子で頷く。


 「フ…」一方の血染は、何やら意味深な微笑を浮かべている。


 瞳は皆を見渡し、そして宣言する。


 「それでは皆さん…今から私達五人は組織名「ドッペルゲンガー」の構成員です。そしてこの組織の目的は…真白さんの記憶を取り戻すこと!」


 皆が頷き、今ここに具情者集団「ドッペルゲンガー」が結成された。

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