笑えない喜劇

於田縫紀

笑えない喜劇

 俺の人生は悲劇というよりお笑いだ。


 小学校時代は成績優秀、このまま一流大学なんて余裕だと思っていた。

 しかし中学校でその自信は木っ端微塵に打ち砕かれた。

 単に俺がいた小学校の程度が低かっただけ。

 全体ではせいぜい中の上くらいの出来だったようだ。


 それでもまだ中学1年はじめの頃はイケている方だと思っていた。


 ある女子がよく話しかけてくるのは、きっと俺に気があるからだろう。

 そう思って告白してみた。

 見事に振られた。

 彼女の狙いは俺がその頃つるんでいた友人だった。


 中学時代は一事が万事そんな感じ。

 結果俺は見るだけで嘲笑される存在と成り下がってしまった。

 だから俺は高校で逆転を狙った。

 高校デビューで本来の俺らしい姿に戻るのだと。


 目指す志望校は少し離れたそこそこ優秀な学校とした。

 そこそこ優秀といっても業者テストでは合格可能性8割。


 他に受験したのは更に高望みな、『行ければラッキー』的なキラキラ学校とした。

 あわよくばより華やかな高校デビューを飾ろうと思ってだ。


 結果、全ての受験校に玉砕した。

 余裕だった筈の第一志望まで。


 第一志望不合格の後に受験可能だったのは残り滓みたいな学校だけ。

 しかし高校浪人は流石にしたくない。


 仕方なくそんな高校のひとつに進学。

 結果、学校内の環境が酷すぎて5月末には不登校になった。


 以後、俺は部屋に引きこもっていた。

 1日15時間以上寝て、残りでネットしたり飯食ったりクソしたりする日々。

 そんな俺としては平穏な日々が3ヶ月くらい続いただろうか。


 ある日突然、パワフルな作業服集団に実力行使で拉致られた。

 社会問題になっている引きこもり、これに対する国の実験的新政策の対象になったとの事だ。

 親の同意も既に得ているとの事。


 連れ去られた先は周囲に緑しかないが、建物だけは真新しい不穏な施設。

 ここで『人間らしく健全な生活を送る』事で引きこもりを矯正しようという話らしい。


 まるで刑務所ではないか、勘弁してくれ。

 そう思ったがパワフル集団の力にはかなわない。

 1週間ほど刑務所はこんな感じだろうかという、奴ら的には『規則正しい人間らしく健全な』生活を続けたところで……


 その日は突然来た。

 出勤してくるはずの職員が来なかった。

 住み込みの職員も車で出たきり、戻ってきていない。

 どうやらこの施設には俺達収容者しか残っていないようだ。


 待てど暮らせど何もない。

 そして奴らが戻らないと俺達は部屋の外にすら出ることが出来ない。

 自室の扉は外から鍵が閉まっていて窓には鉄格子。

 非常用ボタンを押しても何の反応もなくて……


 テレビもネットもこの部屋には無い。

 だから外で何があったか知る事も出来ない。

 そもそもこのままでは飯すら食えない。

 水はトイレと洗面台があるから何とかなるけれど。


 廊下側の壁を壊そうとしてみた。

 蹴飛ばしても足が痛いだけだった。


 椅子で壁を殴ってみた。

 椅子が壊れた。

 机やベッド等大きな家具はボルト止めされていて動かない。


 天井はどうだ。

 机の上に立ってみたが届かない。


 椅子が残っていれば机の上にのせれば届いたかもしれない。

 しかし椅子は壊れてしまった。

 しまったと思ってももう遅い。

 修理しようと思ったがこの部屋内の道具では無理だった。


 このまま俺は此処を出られないまま餓死するのだろうか。

 椅子があれば天井から脱出出来たかもしれないのに。

 その可能性は俺自身が壊してしまった。

 全くお笑いだよなと思う。


 どうやら俺は、自分で何かをすればするほど失敗する運命のようだ。

 まるで出来の悪いコメディ映画のように。

 俺自身としてはまるで笑えないけれども。


 だから決めた。

 もう何もしない。

 俺はベッドに横たわる。

 このまま何もしない、そう念じつつ目を閉じる。


 次に目覚めた時、全てが夢だったとなればいい。

 そんな他人からは笑われそうな望みを半ば本気で抱きながら。

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笑えない喜劇 於田縫紀 @otanuki

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