10話「異性間」
「その感じだと、高校生活もまだあんまり落ち着かないのかな?」
「いえ、中学までとそこまで大きく授業形式などが変わったわけではないので、高校生活に関してはかなり慣れてきました。周りも同じなのか、授業への緊張感がだんだんと無くなってきてますけどね」
「まぁ私たちの時と同じだねー。この時期くらいから、だんだんと周りに色恋沙汰とかの話がよく出てくるようになるんだよね」
「やっぱりそうなんですね。ちょっとずつお付き合いをしているとか、告白したって言う人、出てきてるんですよね」
傑がいきなり先輩女子が魅力的だと口にしたことなど、高校生活に慣れてみんな異性を意識するような素振りを見せるようになってきている。
イケメンや美人はもちろんのこと、俗に言う陽キャというグループの人を中心にすでにカップル成立しそうという話はよく小耳にはさむ。
「ちなみに、翔自身はどうなのよ?」
「うーん……。そもそも、あんまり女子と話をしませんからね。そう言うことに関しては全くですね」
「だろうね。だって私と話してるときの反応見たら、慣れてないんだなぁってすぐに分かるもんね」
七森先輩からの容赦ない言葉が、心にぐさりと突き刺さった。
「わ、分かってるなら聞かないでくださいよ……」
「いやぁ、まさかってことがあるかもしれないから!」
そう言いながらも翔を見る先輩の顔はニヤニヤしていて、そんなこと一ミリも思っていないという顔している。
相手のことが多少でも気になるのであれば、翔のように相手に変なところを見せまいと色々と考えたりして、行動をするだろう。
ただ、翔に対する七森先輩の対応は、そう言ったところが少しもない。
やはり、こちらを弄ぶような心の余裕を見せてくる相手と付き合うなどと、並大抵のことではないような気がする。
傑を始めとする多くの一年生男子が夢見ている先輩女子を彼女するということは、どう見ても実現不可能なことのようにしか思えない。
「ちなみに、先輩はどうなんですか? まさかですけど、彼氏いるとか言いませんよね!? 」
「いやいや、それはない。もしいたら、翔とこうして居られるわけないし」
「で、ですよね……! でも、やっぱりいろんな人から告白されたりとかありますよね?」
「まぁ、それはあるね。学年違うと、先輩だろうが後輩だろうが全く分からないから来られても……みたいにいつもなってるけどね」
「なるほど。後輩だからダメとか言うのではなくて、単純に接点が無さ過ぎて何も分からない。だから、受け入れる受け入れないという問題にすらならないってことですね?」
「そそ。先輩だから、後輩だから魅力的とは別にならないかなぁ。私が部活していないってのもあると思うんだけど……」
翔の中では、後輩というポジションがダメだと思っていたが、七森先輩の中では単純に関わる機会がないことが問題になっているらしい。
「つまり、付き合うならよく知った上で考えたいってことですか?」
「まーそういうことだね。とは言っても、私も同学年男子とそんなに関わりないから、結局のところ気になる相手はいないんだけどな!」
「そ、そうなんですね……!」
七森先輩の言葉に、なぜか翔の中ではホッとしていた。
昼休みの際に傑と話している時に過ったことだが、先輩は男の人と関わり慣れているのではないかと思ってしまっていたからである。
「そのだらしない顔は何だ~!?」
「い、いや! その、えっと……」
そんなちょっと安心してしまった翔の表情の変化を七森先輩が見逃すはずもなく、鋭くツッコミを入れてきた。
「翔は考えていることがすぐに顔に出るね。まぁ、そういうところが可愛らしいんだけどね」
「あ、あんまりいいことじゃないですよね?」
「いや、純粋なところがよく出てるからいいんじゃないかな? ただ、他の男子同様にちょっとむっつりなところも、出てきちゃってる時があるけどな!」
「そ、それは……」
これまでのスケベと言われる要素は、全て七森先輩の誘導だったような気がするのだが、翔としても先輩の体操服姿を考えたり、実際に見て動揺したので文句を言えない立場である。
「まぁそう言うところも含めても、翔の純粋さは私から見ればプラスになって見えてるから、安心しな!」
「な、ならいいのですが……」
先輩からすれば、そういったちょっとした邪なところも含めて翔のことを認めてくれているようだ。
(ということは……)
これまでの七森先輩への異性に対する考え方を聞いて、「こうして一緒に居る関係性を続けていけば、チャンスがあるのでは?」と翔はふと頭に思った。
同学年でも、あまり七森先輩は男子と接点を持っていないとの話だったので、こうして急激に接する機会の増えた自分の立場なら、同学年の相手よりもリードできる可能性もあるように感じてきた。
だが、あくまでも七森先輩は翔のことを後輩として、今は可愛がっている。
そこから急に、翔が異性として見るようになってアプローチを掛ければ、先輩が嫌がってせっかく築くことの出来たこの関係性も破壊することになってしまうかもしれない。
(変なこと、しないほうがいいよな……)
色々な考えが頭の中で浮かんだ翔だったが、突如浮かんできた考えを振り払うようにブランコを大きく漕いでみた。
可愛すぎる先輩の圧に勝てません! エパンテリアス @morbol
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