第20話 七編 2

 右のことから政府というものは、人民の委任を受け、その約束に従い、一国の人民を貴賤上下の差別なく平等に扱い、平等である権利を尊重していかなくてはならない。法を正しくし、罰を厳しく執行し、ひとつも私的に曲げて行ってはならない。今、ここに一群の賊徒がやってきて、人に家に乱入することがあり、政府がその賊を制圧することができなかったならば、政府もその賊の仲間と言ってよい。もし政府に国法で約束していることが守れなくて、人民に被害を与えるようなことがあれば、その金額の高低を論じずその事の新旧を問わず、必ずこれを償わなければならない。例えば、役人の不行き届きにより、国内の人か外国人に迷惑や損害を与え、三万円の賠償金を払うことがあるとする。政府の金、ということは、その金の出たところは人民である。この三万円を日本国中のおよそ三〇〇〇万の人口で割ると、一人当たり一〇文ずつになる(一円=一万文)。役人が不行き届きを一〇回すれば、人民の出金は一人当たり一〇〇文になり、家族五人の家なら五〇〇文になる。田舎の貧しい小百姓に五〇〇文の金があれば、妻子でその家に相応のごちそうを楽しむことができるのに、ただ役人の不行き届きにより、全日本国中のむこの小民の無上の歓楽を奪われるのは本当に気の毒だ。人民としてはこんなばからしい金を出す道理はないようだけれど、人民は国の家元で、最初に政府にこの国を任せて事務を行わせるという約束をし、損得ともに家元が引き受けるものだから、ただ金を失った時だけ役人をかれこれと責めてはいけない。それは初めに約束したからである。だから人民たる者は普段からよく心を配り、政府の処置を見て安心できなければそれを政府に告げ、穏やかに論じればいい。

 人民は一国の家元だから、国を護るための費用を払うのは初めからの職分なので、この費用を払う時、決して不平の表情をしてはいけない。国を護るためには役人の給料がなくてはならない。陸海軍の軍費がなくてはならない。裁判所の費用、地方官の費用もいる。その費用の合計を見れば大金のように見えるけれど、三〇〇〇万人で割って一人分を計算すると何ほどのものでもない。日本の歳入高を全国の人口で割ると、一人当たり一円か二円である。一年間にわずか一円か二円の金を払って政府の保護を受け、夜盗や押し込み強盗の心配もなくなり、一人旅で山賊に怯えることもなくなり、安逸にこの世を渡ることができる。たいへん便利ではないか。一般に、世の中には割のいい商売がある、と言っても、税金を払って政府の保護を買うことほど安いものはない。世間の有様を見ると、家に金を費やす者、美食美服に力を尽くす者、ひどいものは、酒と女のために銭を棄てて生活する金を失う者までいる。これらの費用と、一人当たりの税金とを比べてみれば、当然ながら比べものにならない。筋の通っていない金ならば一銭の出費も惜しむけれども、道理において出した方がいいと言うだけでなく、それを出して安いものを買うのだから、考えるまでもなく快く税金を払うべきである。

 右のように人民も政府もおのおのその分限を尽くして、互いに折り合う時は問題ないが、時にはそうでない時があり、政府が分限を忘れ、暴政を行うことがある。この時、人民の分としてとる行動は次の三つのうちのどれかしかない。節を屈してその政府に従うか、力をもってその政府に敵対するか、正しい道理を守って身を棄てるか(理を訴え続けるという意味)、の三つである。この三つのうち、どれがよいかを左に書こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る