落下速度が計算できる恋

柴チョコ雅

第1話 卒業式といえば

 3月になり日差しが春めいた佳き日にA1高校の卒業式がしめやかに行われた。


 卒業生入場〜卒業証書授与〜校長先生祝辞〜送辞〜答辞〜退場。


滞りなく行われ、最後のホームルーム。生徒たちは担任から各自に卒業証書と卒業証明書を渡され一人一人声をかけられたり語ったり。そんな中、陰謀を巡らす生徒達がいた。


「相井、どうする?」


「亘一のガードが堅すぎる。」


「じゃあ、諦めるのか?」


「いや、俺たちの想いはやはりボタンに託して渡したい。」


「それぐらい許されるよな?」


男子生徒達は姫というあだ名の女子に第二ボタンを渡したくて仕方ない。おっとりとして品が良く可愛い声をしている彼女は彼らの癒しであり、守護対象であり、目の保養であり大事な存在であった。皆の姫であるから手を出さないという暗黙の了解を一切気にしないクラスメイトの亘一が姫とよく一緒にいるようになってしまったこの10ヶ月ほど、どれだけの辛酸を舐めたか。


 朝からどうやって第二ボタンを渡すか画策していた。しかし式が終わるまではボタンを外すわけにはいかない。やはりこのホームルーム後になんとか姫を引き留め、目つき悪く辺りを警戒している亘一を姫から引き剥がし本懐を遂げなくては。


「大崎、お前は彼女持ちだから亘一に警戒されてないだろ、バレー部顧問に挨拶するとか言って連れ出せよ。」


もとは「姫そのまま保存会」(別名 姫に彼氏を作らせない会)のメンバーであり、亘一と同じバレー部の大崎に任務が下った。


「いいけど、あれだけ亘一が警戒してるから時間はあまり稼げないぜ。もたもたすんなよ。」


協力はしてくれるらしいが姫が卒業式に他の男子に告白されて攫われるさらわれる事を恐れる亘一の警戒ぶりにはお手上げらしい。


「よし、渡したいやつはこの袋にボタンを入れろ。」


相井がリュックから透明のビニール袋を取り出した。


「それなんの袋?」


「大丈夫だ。購買でメロンパンを買った時の袋だ。綺麗だし、いい匂いだ。問題ない。」


「「よし」」


クラスの男子達は続々とボタンをはずし入れていった。


「で、どうすんだ?」


「ブーケトスならぬボタントスだ。」


「なんか幸せそうな響きだな!」


「今だ!いけ、吉田!」


コントロール能力をかわれたサッカー部自慢の守護神吉田が亘一が教室を出た隙にボタン袋を姫めがけて投げた!


ナイスキャッチ!


香織…


そう、キャッチしたのは相井の幼馴染、クラスのトラブルメーカーであった香織だ。


「やだー。沢山、第二ボタン貰っちゃったー。どうしよう私ー。」


さすがラブコメ。第二ボタンはきちんと渡らないねぇ。

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落下速度が計算できる恋 柴チョコ雅 @sibachoko8

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