幕間 運命の相手
◇ 王女 システィーナ・スターン=フェルド・フォード
皆さま、ごきげんよう。
あら、少し堅苦しいかしら?
いい?
後でお高く留まっていて鼻に付くとか言わないでね。
あと性格悪そうとかもやめて。
泣き落とし?
ええ、しましたとも。
カマトト?
言われても仕方ありません。
性悪?
いえ、当時10歳だったので大目に見て下さいな。
確かに当時は少し‥‥‥ほんの少し自由奔放だったかもしれませんね。
でも、聞いて下さい。
ロイドを近衛騎士にしたのは深いわけがあったのです。
四大貴族がロイドを奪い合い争うのを防ぐためです。
え?
それなら国王の『金冠隊』で良かったって?
どうして宮廷魔導士長に預けなかったか?
四大貴族はヒースクリフをめぐって結局争ったけどそれは放置したのはなぜって?
なぜかしら?
難しくてよくわからないわ。
ごめんなさい。
ええ、はいはい、認めます。
ウソを付きました。
深い理由があったわけじゃなく、純粋な感情でそうしたのです。
恋?
いえ。
最初は対抗心です。
彼を初めて見たのは子爵に叙勲されたとき。
国王である父プラウドに立派な宣誓をしたあの時、私はそれを見ていたのです。
父プラウドが頭を悩ませていた南部貴族の問題を私よりも年下の男の子が解決してしまった。
まぁ、それはそれはロイドを褒めていました。
勇敢で責任感があり、魔導士としての才能も王国一かもしれない。
私はロイドに嫉妬しました。
私もロイドが現れる前は賢い賢いとよく褒められておりましたのよ。
人を操るにはどうすればいいのかわかって――げふんげふん!
失礼。
ねぇ?
純粋でしょう?
王宮に居ても彼の活躍は耳に入って来ました。
冒険者の横暴を制し、ルールまで変えた。
たった一枚の依頼書と領主の捺印だけで。
長年国民が抱えていた問題を一つ、解消してしまった。
それで冒険者側が敵意を向けるどころか、一目置いたというのだからなおすごいわ。
彼は敵対する相手を味方に付け、尊敬まで受けたのです。
それから誕生日パーティーに招待して私の関心はより大きなものとなりました。
どんな贈り物をしてこようと、「あら、なぁにこれ?」と嫌な顔をしよう。
そう思っていた。
恥の一つでもかけばいいと。
嫌な女でしょう?
はい。
いえ、悪女は言い過ぎ。
子どもの戯れ。
悪戯心でした。
ちゃんと平謝りする彼を慰めて許してあげるつもりだったもの。
でも彼の贈り物を私は悪く言えませんでした。
想像の遥か上を行くものだったから。
今考えて見ても、あれが私のハートを射抜いたのでしょうね。
彼は王都の外の世界、外の人々、私が見ることの無かった日常の風景、人々の表情を見せてくれたのです。
余談ですけれど、彼はそれ以来毎年私の誕生日に続きの風景をプレゼントしてくれてます。
好きになるなという方が無理。
え?
あなただったら平気だとでも?
ウソよ。
ありえないわ。
絶対好きになってしまうもの。
理屈ではなく気持ちの問題なのです。
あら?
何の話でしたかしら?
そうそう、彼を騎士にした理由でした。
運命を感じたから。
あと、お話相手になって欲しくて。
それに困ってる顔がかわいくて。
少しよ。
ほんの少し思った程度なのよ。
騎士になって彼が可哀そうじゃないかって?
そうかしら?
確かに剣術の才能は無いとマイヤも言っていたわ。でも、そう悲観的になること無いと思います。
だって、結局彼は立派な騎士になるのだから。
このお話は彼が最高の魔導士になる話では無いのよ。
彼が如何にしてこの世の全てを統べる者となったのかというお話。
それに私は彼の邪魔はしていません。
むしろ、寄ってくる諸侯の令嬢たちを退けるのに苦労したわ。
私の騎士たちがロイドと仲良くなりすぎて気が気じゃなかったですし。
本当にあの娘たちはロイドをおもちゃにして‥‥‥絶対アレで情操教育に悪影響が‥‥‥
あら?
まだ何か?
いえ、だから性悪じゃなく。
悪女でもありません。
それは、ここからの私と彼の運命の軌跡を見て判断してくださいな。
■ちょこっとメモ
システィーナ
三歳で読み書きを覚えた
五歳で4つの中央大陸語を完璧にマスター
八歳で心理学、経済学、地政学について学び始める
九歳で神学における神官並みの知識を有し、心理学においては実践的な試みを通じて相手の心理を読む手法を会得した。さらに三種の楽器と四種の舞踊をマスター。ドレスの形式や髪型において流行を生み出し、それまでになかった髪型の数々はフォード様式、ドレスのスタイルはシスティーナ式と呼ばれるようになった。
ただ、魔法については全く才能が無くコンプレックス。
馬にも嫌われる性質で乗れない。
完全記憶の魔法使い~元社畜の救世譚 よるのぞく @blood6
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