14.実戦
前回のあらすじは無いので13話を読んでね!
リトナリアの突然の魔法を合図に戦いが始まった。
「あれを相殺するとは口だけではないようだな」
「いえ、今のはヒヤッとしましたよ」
おれは基礎級魔法による牽制を複数準備した。
「ほう、不動無詠唱の構えか。それに同時発動をこれだけ……」
リトナリアが目を見開いた。
観覧していた人たちも驚愕。
魔法を使える者は十人に一人。
魔導士になれる者は万に一人。
無詠唱ができる者は百万に一人。
だがいることはいる。
おれが特異なのは不動、つまり動かずに魔法を発動できる点。
それと同時発動できる魔法の数だ。
「まさか、無詠唱で複数同時だと~!? しかも、視線も合わせず、腕も向けずに~!!!?」
驚くギルド長。
おれとしては腕を向ける方が不思議だ。
魔力は全身どこからでも放出できる。
腕を使う必要はないのだ。
「ふふ、あれは私にもできない。ロイドの魔力制御はすでに私を超えているんですよ」
「な、なに~?」
ギルド長は自分の見積もりが間違っていたことを実感したようだ。
まずは一番発動時間が掛かる土魔法。
これを地面に複数発動待機の状態で用意し、頭上に『氷柱墜とし』を創る。
おれは風魔法が得意だ。それに次に覚えたのは水魔法。
空中で風を回し、気化熱で空気を冷やしておくことは造作もない。
そこに水魔法を加えた複合魔法で氷を発生させる。
それを氷柱状にして回転を加えて落とす。
おれのオリジナルの魔法だ。
この間、リトナリアはこちらの出方を見て、攻勢に出てこなかった。
出てきていれば『風圧』で押し返していたのだが――
「―――ッ! 氷だと!」
不動の利点は手や目線などで魔法の発動場所がバレない点だ。
不意打ちし放題。
頭上という死角から発動に時間のかかる氷魔法が放たれたことにリトナリアが驚いた。
[ドッドッドッ!]
高速回転しながら落ちてきた氷柱を避けた先には基礎級魔法『砕石』を仕込んでいる。
「む、今度は土魔法か!」
彼女は足元をすくう穴にも冷静に対処し、素早くその場を駆け抜ける。
おれの予測より早い。
(あれは『送風』で加速しているのか)
飛んで地面の罠を全て躱された。
『送風』じゃない。
彼女は『風圧』で急加速したのだ。
おれは土の基礎級魔法『石礫』で生まれた弾丸を『風圧』で撃ちだした。
『連弩弓』と呼んでいるオリジナルの複合魔法だ。しかしこれもリトナリアは躱しこちらに迫る。
『風圧』を駆使した急旋回で的が絞れなかった。
(風魔法の練度は彼女の方が上か)
おれは近接戦闘の距離にまで彼女の接近を許してしまった。
だがそれは想定内だ。
彼女が接近するのは先ほどの試合を見ればわかること。
「――また、罠か!!」
おれの周囲をグルっと囲むように『土流』が発動した。
現れた土砂は牽制と同時に隠れるための遮蔽物にもなる。
「基礎級魔法が何て威力だぁ~!!」
「ロイドは基礎級魔法の練度ではすでに王国一かもしれません」
「彼はいくつだ~!?」
「六歳ですよ。まだね」
オリンピックの体操選手も真っ青のアクロバットで『土流』の罠を回避し着地したリトナリアは、遠距離から『突風』を繰り出した。
これは『土流』で出来た遮蔽物に阻まれておれには届かない。
その間におれはさらに魔法発動の準備に取り掛かる。
(作戦通りだな‥‥‥)
彼女は魔法を駆使してガンガンおれとの距離を詰めて来る。
だがおれは基礎級魔法と対人級魔法で距離を取る。
「‥‥‥攻め気が無いな~。耐久戦か~。子供の浅知恵だな~」
「耐久戦? 若様がそんな普通のことするかしらねぇ?」
「うむ‥‥‥ロイドの魔法の威力はこんなものでは無い」
「耐久戦でなければなぜ対魔級魔法を使わないのでしょう?」
彼らの疑問はもっともだ。
「なるほど、その歳で大したものだ。だが、受け身になりすぎだ。敵の力を計り知る前に安心するな!」
「え?」
急に悪寒がしておれはその場に伏せた。
するとおれを囲んでいた遮蔽物が吹き飛んだ。
頭スレスレだった。
「安心しなさい。これを当てはしない」
彼女の魔法の練度はおれの想像の遥か上を行った。
(今のは『風切』か!? 同じ魔法でもおれのと全然違う!!)
慌てるおれにリトナリアは容赦なく距離を詰める。
しかもさっきよりも格段に速い。
『風圧』による加速。
自身に強力な風を当てるという難しい魔力操作を戦闘中に動きながらできるというのは、まさに蒼天の霹靂だった。
「クソッ!!」
とっさに放ったのは『連弩弓』
しかし、リトナリアは避けずに突っ込んできた。
両腕でガードの構えをして高速で飛来する岩の弾丸を受けた。
弾丸は弾き飛び、粉砕して土煙を生んだだけ。
彼女の両腕は全ての弾を防いだのだ。
「ばかな!!『風の鎧』なんかで防げるはず――」
「今のはヒヤッとした! だが終わりだ!」
苦し紛れにおれは足元に仕込んでいた土魔法『土壁』を発動させた。
しかし、やはり、その壁は一瞬でバラバラに粉砕された。
「子供にしてはがんばりましたな~」
「ロイド‥‥‥」
これこそ彼女の真骨頂。
『解体魔』と呼ばれる所以だ。
彼女は対人級魔法『風切』を両手に纏い、その手に触れたもの全てをバラバラにブッチャーする。
一つの魔法を極限まで高め、固有魔法にまで昇華したそれは、対人級ではありえない威力を持つ。
「うわー!!‥‥‥なんてね」
「何!?」
急接近していたリトナリアのスピードが下がった。
おれが魔法をレジストしたのだ。
「その手があった!!」
ヒースクリフが真っ先に気付いた。
「何だ~!?」
そう、おれの作戦は消耗戦ではない。
「私の魔法をレジストしたのか?」
レジストは単純な技術ではない。
属性魔法にはそれぞれ同時に使いやすい属性と、相性の悪い属性がある。
その相性の悪さを利用しジャミングする技術だ。
これは相手の魔法属性を知っていなければならず、相応の魔力を消費する。
その上、相性の悪い属性はこちらも使えなくなる。
「だが、ロイドは全属性使える」
「はぁ? あの歳で~!!?」
「しかも異なる属性を同時並行して発動させられる」
「‥‥‥何者なんだ~あの子は‥‥‥」
そう、風魔法を光魔法でレジスト。
風魔法と相性が悪いのは光と土。
光魔法は土、水、風に対しジャミングしてしまう。
この二つの魔法が入り乱れた場ではこれらが全て発動困難に陥る。
つまり、素早く発動できる属性が火属性に限られる。
リトナリアは風魔法で接近戦の能力を向上させている。
その魔法が使えなければ、おれが一方的に至近距離で魔法による攻撃が可能だ。
懐に入っての魔法の行使が厄介だというローレル、スパロウの教え通り、おれは自分に有利な条件で魔法での接近戦を演出したのだ。
「ぼくの勝ちですね!」
おれは対魔級魔法『火炎』を無詠唱で発動した。
リトナリアの短縮詠唱は風に限られていたことから火魔法の発動スピードでおれに勝つ術はない。
「基礎級ばかりを使い、消耗戦に見せかけたのはこの布石か」
「若様すごい!!」
「戦略も超一級だ!!」
「坊ちゃますごい!」
「敵の力を見誤ったのはあなたの方でしたね」
こうしておれは冒険者の魔法の行使を十二分に学びつつ、戦略的に魔法で攻める姿勢を――
え?
まだ終わって無かったっけ?
ああ、はい。
はい、すいません。
まぁ、蛇足ですけれども、もうちょっと先を見ましょう。
リトナリアはおれの至近距離からの火魔法を普通に躱した。
こう、ひらりと。
軽業師みたいに。
「ん???」
そして懐に入って風魔法を発動させた。
「え、ちょ、待っ―――がはっ!」
彼女は最初から本気じゃなかったのだ。
身体能力だけで彼女は十分大人の男をぶっ飛ばせるだけの力があった。
さらに風魔法のレジストを力業でねじ伏せられた。
うっかりしてた。
おれは風魔法を使えたが、風魔法に特化した彼女とは練度が違った。
えへへ、恥ずかし。
おれは至近距離で『風圧』を受け、壁に激突。
失神しました。
はい、負けましたー。
あと、後で父上に怒られましたー。
くそぉぉぉ!!!
■ちょこっとメモ
風属性【対人級魔法】
『突風』『気流』にさらなる魔力を込めた貫通力を持つ風。
土属性【基礎級魔法】
『粒砂』砂や塵を動かす
『砕石』石を砕く
『砂礫』砂や塵を密集させる
土属性【対人級】
『土流』『粒砂』にさらなる魔力を込め土砂を生む
『石礫』『砂礫』にさらなる魔力を込め石の礫を生む
『土壁』『土流』で発生した土砂を『石礫』で固め土の壁を生む
火属性【対人級魔法】
『火球』『着火』にさらなる魔力を込め『燃焼』による爆発力で発射する
火属性【対魔級魔法】
『火炎』『火球』を飛ばさず広範囲を『燃焼』で燃やす
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます