異世界コメディ「城壁警備員の呟き」
西城文岳
本編
今日も快晴、目の前に広がる地平線まで見えそうな平原。自分の背後には川の上の橋を挟んだ向こうに城壁に守られた自分達の暮らす街がある。
今日も槍を片手に魔物の進行がないか見張っている。
「なぁ」
「なんだよ」
自分ともう一人、道を挟む形で立っている相方の話し掛ける。
「暇だよな」
「そうだよな」
門番の仕事を志願した時に、検問的な荷物検査の仕事や馬車の御者と通行手続きや通行料の徴収をするもんだと思っていた。
「突っ立てるだけなんだよなー」
「しかも馬車も来ねぇ」
「勇者しか来ないよな」
今までここを通った勇者はここを出ていき、棺桶を携え帰ってくのをよく見る。
というか偶に棺桶四つが超高速で空を飛び、教会に飛んで行くのを見たことがある。そしてまた勇者が門から出ていく。
「なぁ」
「なんだ?」
「ずっと気になってたんだけどさ。このマニュアル何なの?」
俺の手元の羊皮紙には
※勇者が現れたら持ち場を決して離れないこと。
※勇者に話しかけられたら「ここはジョウカーマチだぞ」とだけ言うこと。
※勇者に対するその他一切の発言、行動を禁ずる。
としか書かれていない。
「ああ、それだけ守ってれば日給千円だ」
「いやそうじゃないだろ!もっと根本的におかしいだろ。何なの?勇者にそれ以外の発言したらヤバイの?」
「ああ、ヤバイ」
「なんでぇ?勇者って危険生物なのかよ」
「ここだけの話、それは教会と国王が話し合って決めた御触れなんだとよ」
「え?この紙そんな大層なモンなの?こんな世界の英雄を危険動物か何かみたいな扱いを指示する紙が?」
「そうだ、勇者にこの世界は一定のことしか出来ないゲームだと思わせて置かないと殺されても文句言えないだって」
「怖……ホントに危険生物じゃん」
「ああだからその紙に書いていることは絶対気を付けろ。昔の2DスクロールRPGから最近のオープンワールドアクションゲームに変えたくなかったらな」
「つーでぃーすくろーるあーるぴーじーってなんだ?」
「最近のゲームは民間人も殺せるから怖いんだよな」
「いやだからそれ何なんだよ」
「きたぞ、勇者だ」
相方がそう発言したとたんアイツは姿勢を正しピクリとも動かない。俺も同じように姿勢を正す。
だが今回現れた勇者は一風変わっていた。
「なんか、アイツずっとこっちを見てないか?」
「シッ!黙れ!」
小声で相方が怒鳴りつけてくるが地平線向こうから現れた勇者は今もこちらを見ている。全身が四角で構成されており一定のリズムで足を動かしている。一歩一歩、足を動かしているはずなのにそれに見合う歩幅では無い。途中現れる魔物の勇者が近づくに伴い全身が四角いブロックで形作られて行く。それは地面も草原も同じ
「ヤバイ!ファミ〇ン勇者がまだいたとは!」
相方の意味不明な発言が何か危機である事は間違いなさそうではあるが自分には何が危機であるか分からない。だがあの勇者の周りだけが世界の法則を歪めている恐ろしさだけが自分に残る。
勇者は魔物を蹴散らし段々こっちに近づいてくる。それに伴い橋が、川が、自分の体でさえ四角の集合体となる。そして自分の目の前に立ち止まり勇者が話し掛ける。
いや、この表現は正しくない。確かに俺は話しかけられた。だが勇者の四角の口から何か言葉が発せられた訳ではない。直接俺の頭に「話しかけられた」という未知の感覚が響いたのだ。その時の不快感は簡単に言葉に出来るものじゃない。頭に針を直接差し込まれたような、もしくは体を糸で操られているのか、または魔法で何かをされたような。
ただその感覚を受けた俺はあの言葉を発さなければと口を動かした。
「ココハ ジョウカーマチ ダゾ」
自分の喉から出た発言は見たことの無い黒い枠に囲まれたカタカナとして出現した。
その枠に満足したのか勇者は離れ俺の横を通り過ぎる。だが俺から視線を話す事無く。勇者が町の奥に行くに連れて世界は四角いブロックからいつも見る自然に戻っていく。
「行ったようだな」
「何なんだよあの勇者!」
「リメイクが出たからもういないだろうと思っていたがまだ初代デーモンクエストで遊ぶ奴がいたとはな」
「いや意味わかんねぇって!」
「ファ〇コン勇者の頃は怖かったなぁ。システムが脆弱だからバグと認識すれば一瞬でフリーズして消されてたなぁ」
「だから何言ってるかわかんねぇって!」
「あれ?初代って確か勇者が王様に話しかけると……」
「ココガ ジョウカーマチ カ」
「魔王軍!?」
だがその姿は手配書とは違い、面影はあるが四角いブロックで構成された姿で色合いでしかその判断がつきにくい。
ただでさえ強い魔王軍がよく分からない現象を引き連れたより強い恐怖の対象としてしか俺の目には映らない。もう考えるよりも先に身体が動いていた。
「まて!持ち場から離れるな!バグとして消サレルゾ!」
相方の声が聞こえるが止まって居られない。ただそこから離れたかった。
だが、目の間にこちらに向かう勇者が一直線走りながらに現れる。
このままでは鉢合わせになり自分の体は四角いブロックになるだろうと思う同時に相方のあの言葉が思い出す。
(システムが脆弱だからバグと認識すれば一瞬でフリーズして消されてたなぁ)
何がどう頭の中で結びついたか分からないが、ただこのままでは良く無いことが起こることだけは直感出来た。足を止め何とか勇者からも逃げようとするが
(ダメだ!?止まれない!?)
逃げる為に全速力で走っていたから急に止まって引き返そうにも勇者に追いつかれてしまうだろう。
(ああ、ダメだ消えたくない……!)
必死の祈りも虚しく、瞬く間に勇者に衝突した瞬間、世界は真っ黒に包まれ
「ツー」と言う機械音だけになった。
異世界コメディ「城壁警備員の呟き」 西城文岳 @NishishiroBunngaku
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